〔牛滝(うしたき)〕の紋次
『鬼平犯科帳』文庫巻3に所載の[兇剣]で、実兄の〔闇鴨(やみがも)〕の吉兵衛とともに〔虫栗(むしくり)〕の権十郎(2代目)の配下だったが、一味が捕縛されたときは河内へ出かけていてまぬがれた。
(参照: 〔虫栗〕の権十郎の項)
実兄の〔闇鴨〕は鬼平を襲って斬り殺されたので、報復をすべく、〔猫鳥(ねこどり)〕の伝五郎(30男)から紹介された、大坂の元締〔高津(こうづ)〕の玄丹に、400両の大金で鬼平の暗殺を依頼する。
(参照: 〔高津〕の玄丹の項)
年齢・容姿:「若い」とだけ。物堅そうな服装(みなり)。
生国:和泉(いずみ)国泉南郡(せんなんこうり)牛滝村(現・大阪府岸和田市大沢町)。
市の南端。牛滝川にそった町で、町域の大部分が山地。
事件の展開:〔牛滝〕の紋次が〔高津〕の玄丹を訪ねると、玄丹は紋次を、〔そえ状〕をつけて〔白子(しらこ)〕の菊右衛門へまわしてしまった。
菊右衛門は、[麻布・ねずみ坂]の事件で、〔川谷(かわたに)〕の庄吉から鬼平の花も実もあるあつかいを聞いて鬼平の人柄に惚れこんでいるので、鬼平を暗殺することなどおもいもよらないが、400両もの大仕事をまわしてきた〔高津」の玄丹の腹の底が読めないので、とりあえず、紋次を歓待して、時間をかせぐことにする。
(参照: 〔川谷〕の庄吉の項)
結末:: 大和の大泉の大庄屋・渡辺喜左衛門方への押し込みに〔高津〕の玄丹一味が失敗した噂を聞いた〔白子〕の菊右衛門は、〔牛闇〕の紋次の始末を、右腕の〔桑名(くわな)〕の新兵衛にいいつけた。
つぶやき:この篇でもっとも笑えるのは、〔白子(しらこ)〕の菊右衛門が、
「ひとつ、ぜひとも、長谷川さまにお目通りをしたいものだが---」
右腕の〔桑名〕の新兵衛が、すかさず、
「それは元締、むりというもので」
とうけたので、菊右衛門がむっつり、
「こいつ、あんまりはっきりというな」
と不興がるシーン。
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コメント
[兇剣]は、[妖盗葵小僧]に次ぐ分量の篇ですね。
連載1年半たらずにして、早くも、150枚前後---ということは、ふだんの1篇の2倍以上の作品の掲載が許されるようになったのですね。
それだけ、読者の支持が強くなっていたのでしょう。
かつての白井喬二とか吉川英治とかはしりませんがも、最近の大衆文学の世界では珍しい現象といえないでしょうか。
投稿: 文くばり丈太 | 2005.06.15 14:04
>文くばり丈太さん
そして。
[兇剣]から半年後の[密通]から、『鬼平犯科帳』は『オール讀物』の「トリ」をとることになりましたね。
ぼくたちは、文庫で読んでいますから、つい、月々の連載だったことを忘れがちですが、「これは、連載何回目の篇」と、掲載時を想像しながら読むと、当時の反響にもおもいが及ぶとおもいます。
投稿: ちゅうすけ | 2005.06.15 15:03