〔鏡(かがみ)〕の仙十郎
『鬼平犯科帳』文庫巻12に配され、高感度は全篇中でも五指に入る[密偵たちの宴(うたげ)]で、浅草・橋場の町医者で高利貸しもしている竹村玄洞邸に押し入った、浪人あがりの凶悪な盗賊。このたびの盗めには、かつて〔大滝〕の五郎蔵が助(す)けを断った〔草間(くさま)〕の貫蔵(50近い)も加わっていたために、はやばやと目星がついた。
(参照: 〔大滝〕の五郎像の項)
(参照: 〔草間〕の貫蔵の項)
年齢・容姿:53歳。容姿の記述はない。奸智にたけた獰猛な奴と。
生国:近江(おうみ)国蒲生郡(がもうこうり)鏡村(現・滋賀県蒲生郡竜王町鏡)。
鏡という町名は、栃木県小山市、新潟県柏崎市、佐賀県唐津市などにもあるが、〔鏡(かがみ)〕の仙十郎について大坂の町奉行所や中国すじの各藩から江戸の町奉行所や盗賊改方へ照会がきているとあるから、本拠を上方とみて、滋賀県の竜王町とした。
探索の発端:〔大滝〕の五郎像が竹村玄洞邸を下見するために浅茅ヶ原から福寿院の横道へやってきたとき、〔草間(くさま)〕の貫蔵を見かけた。
貫蔵は、総泉寺の境内でお長(40女)とつなぎをつけていた。お長を尾行(つ)けると、竹村玄洞邸へ入っていった。
これで、どこかの盗賊一味が竹村邸の金蔵を狙っていることがはっきりした。各所へ見張り所が設けられ、押し入りの日を待った。
結末:竹村宅を襲ったのは〔鏡(かがみ)〕の仙十郎一味15名で、うち2名が雇われ用心棒の浪人に斬られ、5名が火盗改メに斬り殺され、8名はすべて捕縛。
〔鏡〕の仙十郎は、市中引き回しの上、磔刑。ほかは死罪。
つぶやき:この篇の見ものは、末尾のおまさの啖呵である。日ごろは冷静なおまさが、茶碗酒をあふってつねにない啖呵を切るが、女性も抑圧がとれると、一気に爆発するということのサンプルである。
(参照: 女密偵おまさの項)
芝居の打ち上げ会かなにかで、酔った女優さんがすごい啖呵をきった場面に遭遇した体験が、池波さんにあるのかもしれない。
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