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2005.10.13

マドンナ・ふさ

『鬼平犯科帳』文庫巻1におかれている、シリーズ第2話として発表された[本所・桜屋敷]のヒロイン・ふさ。
〔マドンナ〕と、時代小説にふさわしくない冠称を付したのは、青春時代の鬼平(長谷川平蔵。幼名・銕三郎)と岸井左馬之助のあこがれの乙女だったから。
桜屋敷は、本所の横川ぞい、法恩寺の西につらなる出村町に10代つづいた旧家・田坂家のものである。庭に数本の山桜の見事な老樹があったので、近隣の者たちは、そう、呼んでいた。
桜屋敷の南隣が農家を改造し高杉銀平道場で、銕三郎と左馬之助は剣術の鍛錬にはげんでいたのである。
その道場へ、桜屋敷の孫娘の、まるで、むきたての茹(うで)玉子のようなふさ(18歳)が、
「御門人のかたがたに、これをさしあげるよう、祖父(直右衛門。70余歳)から申しつかりました」
と、蕎麦切りと冷酒を下女にもたせてあらわれると、銕三郎も左馬之助も顔へ真赤に血をのぼらせ、胸をときめかしたものだった。
ふさは、2人の若者の気持ちとは関係なく、日本橋・本町の呉服問屋〔近江屋〕へ嫁いだ。
しかし、ふさは〔近江屋〕を出された。夫・清兵衛が病死したからである。そして御家人・服部某の後妻にはいった。

201

年齢・容姿:盗賊〔小川や〕梅吉のふさ評。「そろそろ40の坂へかかろうというのに、見かけによらず、まだ汁気も残っておりましてね」
もっとも、白洲へ座らせられているふさは、岸井左馬之助の眼には、むすめのころは色白でむきたての茹玉子だった顔は痩せ、かつてはむっちりととふくらんでいた唇は嘘のように乾いて見えた。
生国:江戸・本所出村町(現・東京都墨田区大平1丁目)

探索の発端:密偵〔豆岩〕が、津軽越中守の上屋敷裏、南割下水のところで、人相書手配中の盗賊〔小川や〕梅吉を見かけて尾行、御家人・服部某の家へ消えたのを確かめた。そこでは賭場もひらかれており、ふさと情をかわした梅吉は、ふさの以前の婚家先、豪商〔近江屋〕への押し入りをたくらんでいた。
火盗改メを命じられた鬼平の初仕事となった。

結末:服部某宅を急襲した火盗改メに捕えられた〔野槌(のづち)〕の弥平の残党〔小川や〕梅吉は磔刑、ふさは遠島。

つぶやき:この篇は、ふさが変わり果てるにいたった---鬼平の感慨「女という生きものには、過去(むかし)もなく、さらに将来(ゆくすえ)もなく、ただ一つ、現在(いま)のわが身あるのみ---」を示すためでもあるが、読み手に、長谷川家の歴史と鬼平の育ちを説明する役目も背負っていた。
というのは、あわただしくスタートしたシリーズ第1話では、鬼平の登場場面もほんの数行でしかなかったからである。

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コメント

おふさを盗っ人仲間に入れるのにはちょっと抵抗があります。
ほかの立派な盗っ人からクレイムがつくのでは、でも小川の梅吉と出来ていたのではしょうがないし、近江屋を狙わせたのですから。
それにしても近江屋の義弟夫婦は冷たいですね。義姉を追い出したのですから、一つ屋根に女が二人居るとうまく行かなかったのでしょう。それともおふさが余りにも世間知らずに育てられたからか。
おふさもきっと平蔵と左馬之助のどちらかに惚れていたでしょうに、二人がつまらぬ誓いをたてたものだから、そのとばっちりを受けてしまいましたね。

投稿: 靖酔 | 2005.10.13 09:49

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