〔駒沢(こまざわ)〕の市之助
『鬼平犯科帳』文庫巻7に収録[雨乞い庄右衛門]で、大盗〔雨乞(あまご)い〕庄右衛門(58歳)が疾患のある心臓の保養のために、安倍川の水源の梅ヶ島の温泉に滞在しているのを、〔勘行(かんぎょう)〕の定七(30男)と連れ立って江戸から殺害に出かけた没義道なのが、この〔駒沢(こまざわ)〕の市之助である。
(参照: 〔雨乞い〕庄右衛門の項)
(参照: 〔勘行〕の定七の項)
3年にもおよぶ梅ヶ島の湯の効果があらわれたかして、庄右衛門の心臓の発作と神経痛は小康をえた。そこで燃え上がる〔盗みへの情熱〕をもてあました庄右衛門は、江戸へ下ってかねてからのお盗めを実行する気になった。
梅ヶ島を発って安部川ぞいに東海道へ出、小田原の旅籠〔伊豆屋〕に宿をとった翌朝、市之助と定七にばったり出会ったものである。
平塚の宿で、2人は庄右衛門を襲ったが、同宿していた岸井左馬之助に邪魔をされ、ほうほうのていで逃げ出した。
年齢・容姿:屈強な30男。
生国:信濃(しなの)国諏訪郡(すわ)郡駒沢村(現・長野県岡谷市川岸西1丁目)。
探索の発端:剣友・左馬之助が庄右衛門一味に疑惑を感じたのはそのときからである。
六郷の渡しで発作をおこして死んだ庄右衛門のいまわのきわの頼みで、浅草・阿部川町に住む庄右衛門の妾のお照へ金をとどけに行ってみると、一味の若者伊太郎といちゃついていたお照は、庄右衛門の参謀格の眼鏡師・〔鷺田(さぎた)〕の半兵衛の手で、すでに始末されていた。
(参照: 〔鷺田〕の半兵衛の項)
火盗改メの捜査がはじまった。
結末:つぎのお盗めのための隠し金400両を預かっていた深川・小松町に住む半兵衛は、市之助や定七など一味の5人の手で殺されていたが、全員、鬼平に捕まった。一同、死罪であろう。
つぶやき:じつは、『鬼平犯科帳』に描かれている江戸以外の史跡で、最初に訪れて宿泊したのが、〔雨乞い〕庄右衛門が湯治をした梅ヶ島であった。
静岡新聞社が主催するカルチャーセンターに〔鬼平〕クラスをもった最初の講義のあと、旧友のN君が2時間以上も車を走らせて送りとどけてくれた。立教大学出身という宿のご主人の丁重なもてなしも気にいった。
翌朝の小雨にけぶる安倍川源流を、野生猿の一群が沢渡りしているのをみ見て、瞬時にこの温泉場が好きになり、ここで3年間も湯治をした庄右衛門の心中へもおもいがおよんだ。
以後、この小品は、ぼくの心の中で、好きな1篇に育っている。
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コメント
鉄砲玉は捨てられる。
親分の意図に従って殺しなどを実行する者はそれ程のしっかりした信条を持っていないので
捕まったら、洗いざらい自白するが親分などは
「知らぬ存ぜぬ」で押し通そうとする。
結局は水掛け論になって証拠不十分で無罪になる事実がよくありますね。
投稿: edoaruki | 2005.10.09 11:30