悪女(あくじょ)おのう
『鬼平犯科帳』文庫巻14に収まっている、伊三次ファンにとっては痛恨の物語[五月闇]。
火盗改メのお頭・鬼平の信頼の篤い密偵・伊三次が、急ぎばたらきに落ちた〔強矢(すねや)〕の伊佐蔵(37,8歳)に刺殺される。
(参照:密偵・伊三次の項)
(参照: 〔強矢〕の伊佐蔵の項)
伊佐蔵が伊三次を刺殺するにいたった因縁は、かれこれ10年前に名古屋で、女房おのうを伊三次寝取られたうえに殺され、さらに伊三次の短刀で胸をきりつけられたことによる。
伊三次とできて駆け落ちしたものの、もともと浮気性だったおのうは、半年もたたないうちに男をつくるような、亭主気どりの男にとっては我慢のならない悪女、おのうの側からいえば、躰の熱気にしたがってちょっとばかり奔放に振るまっただけのことであったろう。
年齢・容姿:どちらも記述されていないが、男好きのする容貌と細身の躰つきをしていたろうと推察。
生国:これも記述はないが、越後の山村生まれの〔強矢〕の伊佐蔵が忘れかねるほどに床上手だったことを考えると、同郷というより名古屋で知りあったと考えるほうが妥当。その男に対する好奇心の強さから、尾張国のどこかの生まれとしておこう。
探索の発端と結末:すでに10年も前に伊三次に殺されているから、発端も結末も関係ない。ただ、伊佐蔵の怨恨が伊三次の身におよんだ。
つぶやき:考えようによっては、密偵・伊三次は、おのう殺しの殺人犯である。
そのことを告白した伊三次に、鬼平は、
「長谷川平蔵、たしかに、聞きとどけた。なれど忘れるなよ」
「へ----?」
「お前は、わしの子分だということを、な----」
融通無碍とはこのことであろうか。
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