〔犬神(いぬがみ)〕の竹松
『鬼平犯科帳』文庫巻13に載っている[殺しの波紋]で、つい冒した犯罪を隠すためにさらに殺人を重ねた火盗改メ方与力・富田達三郎を強請(ゆす)るのが、〔犬神(いぬがみ)〕の竹松である。
3年前、属していた〔下津川(しもつがわ)〕の万蔵一味が火盗改メに襲われたとき、自分はどうにかのがれたものの、弟を富田与力に斬殺された恨みもあった。
(参照: 〔下津川〕の万蔵の項)
情婦のお吉を使って強請り状を役宅あてとどけさせた。
年齢・容姿:年齢の記述はないが、お吉とのじゃれあいから察するに、40男であろう。濃い体毛---ということは、鬚の剃り跡も青かろう。
生国:このシリーズには、〔犬神〕という「通り名(呼び名)」の盗賊がすでに登場している。
巻10で[犬神の権三]のタイトルにもなっている権三郎がそれである。
権三郎の生国を、ぼくは近江国犬上郡富尾村(現・滋賀県犬上郡多賀町富之尾)と断じ、現地取材までした。
そのリポートは、
http://onihei.cocolog-nifty.com/edo/2005/05/post_8dac.html
[犬神の権三]は、『オール讀物』1973年4月号に掲載された。[殺しの波紋]は、2年のちの同誌1975年8月号である。いくら売れっ子だった池波さんでも、タイトルにもした主人公の「通り名」は覚えているはず。
それでも竹松に〔犬神〕を冠したのは、犬神伝説が全国にあるとい吉田東伍博士の説を信用したからかもしれない。
〔下津川〕の万蔵が紀伊の出身ということもあり、あえて、権三郎と同郷説をとってみた。
探索の結末:〔平野屋〕の番頭・茂兵衛が浅草・阿倍川町の竹松の隠れ家を突きとめるが、そのことで逮捕の手がのびたとは書かれていない。火盗改メが必死で探索していたとあるにしては、あっさりした扱いといえる。
つぶやき:『完本 池波正太郎大成』(講談社)の[殺しの波紋]も改めてみたが、竹松の〔犬神〕は削除も改変もされていなかった---ということは、池波さんは、あえてこの「通り名」に固執していたと断じてよかろう。
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コメント
「犬神」という通り名に池波さんが固執されていたというので、もう一度「犬神
の権三」の項を読んでみました。
昨年の5月1日に掲載された時より、内容が一段と充実されていて驚きました。
滋賀県犬上郡多賀町まで取材に行かれ、犬上川、大蛇ヶ淵などの写真や記事がそえられ、
また烏山石燕の「画図百鬼夜行」から「犬神白児」の絵が掲載されておりました。
一度読むとなかなか再読したりしない読者の陰で
管理人様は新しい資料を書き加えていらっしゃたのです。
これが管理人様の目指すブログの真の意義なのですね。
「犬神の権三」は
http//onihei.cocolog-nifty.com/edo/2005/05/post_8dac/html
投稿: みやこのお豊 | 2006.03.14 01:13