葵小僧ものの読後感
[江戸怪盗記]は、『鬼平犯科帳』シリーズが始まる4年前の、『週刊新潮』1964年1月6日号に載った。
2編を読み比べ、レイブを受けた夫婦の、その後の対応の微妙を、女性の立場から、鬼平熱愛倶楽部メンバー・一子さんが記す。
[江戸怪盗記]を読んで一番不思議に思ったのは、妻が自分の目の前でレイプされるという大変な事が起こったにもかかわらず、最後は夫婦の何気ない会話で終わっていることです。
その理由としては、
・日野屋久次郎は自害するとまでのぼせて、きぬと結婚
・2人の間には男の子が生まれている
・事件後、もう忘れようと夫婦は互いにいたわり合う
・長谷川平蔵の早い吟味、決着のおかけでレイプ事件は世間にもれなかった
と書かれています。
次に『妖盗葵小僧』を読むと、龍淵堂京屋善太郎、千代が登場しています。葵小僧にレイプされた妻を許すことが出来ずに善太郎は千代を薬殺し、自分も首を吊って自殺しています。
レイプされたときの様子は詳しく小説に書かれておりますが、あまりに生々しい描写は、女性の立場からはあざとく思え、最初は池波先生の読者へのサーピ゛スかとも思えたほどです。
その次に、また、日野屋夫婦が登場シテオリ、レイブ事件がおきます。
「おきぬは他の女のように我を忘れて、燃え上らなかった。葵小僧のゆびや舌の攻撃をじっと耐え、棒のように横たわっているのみであった」
たった2行のこの文章を読んだとき、日野屋夫婦への疑問が解けた思いでした。
心中してしまった龍淵堂、やり直すことができた日野屋、明暗を分けた夫婦を強調するにはやはり、あの描写は必要だったのかな?
(でも、少しリアルすぎるかも)と、思いました。
何故、葵小僧がレイプという卑劣きわまりない行為を犯すようになったのか。
・生い立ちから転落の人生
・つけ鼻に強調される劣等感
・声を盗んで声色を使うというアイデア
などの手法を用いて物語をふくらませ、事件は解決しています。
鬼平の英断で数多くの女性達の秘密が守られていたという結末を読んで、最後に私自身も救われたように思いました。
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