[2-3 女掏摸(めんびき)お富]の寺社(2)
女掏摸(めんびき)お富が、外出の言い訳のために買った寺社のお守りやお札のうち、浅草寺と王子権現は、きのう、掲示した。
あと、お富が持ち帰り、笠屋の亭主・卯吉に見せてつじつまをあわせたのは、湯島天神である。
この寺社の選定が、どうもよくわからない。
もっとも合点がゆくのは浅草寺で、ここの人ごみは、掏摸には絶好だが、その分、奉行所の眼も光っていよう。
だから、言いわけ用のお守り程度にとどめておくのが無難。
王子権現は、滝野川村経由でいくと、巣鴨から近いことは近い。
ただ、三沢仙右衛門も鬼平もこのコースはとらず、駒込、大炊之坂(おおいのすけざか)の日光御成街道を行くのが好きらしい。
根津権現については、池波さんはこう書いている。
お富は、巣鴨原町から小石川へでた。
先ず、本郷・根津神社の盛りで働くつもりであった。p106 新装p113
ここは、宝永三年に千駄木の元根津・権現山から祭神(素戔鳴尊すさのおのみこと)など三座を移してかおら門前町として繁盛し、岡場所も大きい。p108 新装p114
人で賑わっていることと、信心の片鱗としてのお守りとは、さほど関係がないようにおもう。
もっとも、池波さんは、ここの盛り場を取り仕切っている〔三の松(さんのまつ)〕平十とおなじみだが。
市ヶ谷八幡は、お富にとっては、千慮の一失とでもいうべき愚行であった。
七五三造に強請られた百両は都合がついた。
その気のゆるみが、勝手に熟練の指をうごかした。
鬼平は見逃さなかった。
だが、ここでお守りを求めたかどうかはわからない。
『江戸名所図会』の長谷川雪旦の絵に、池波さんは境内茶屋を見つけ、〔万屋〕と名づけた。
ほかの作家は気づいていない。
ついつい、肩入れしてしまうのだろう。
湯島天神は、池波さんの好きなロケーションである。
境内から東方に、いまは無粋なビルにさえぎられて見えないが、不忍池があり、池波さんの心眼には、長谷川雪旦の絵にあるとおりに見えるのであろう。
[22 炎の色]で、おまさが〔峰山(みねやま)〕の初蔵と出会うのも天神のこの境内。
[13-8 一本眉]で木村忠吾がおごられる居酒屋〔次郎八〕は、この裏門下である。
このほかにも、しばしば登場する。
ただ、お富が学問の神様・菅原道真に縁がふかいとは、とてもおもえないのだが。
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