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2008.06.01

〔名草(なぐさ)〕の嘉平

『鬼平犯科帳』文庫巻4に所載[おみね徳次郎]に登場した時は、すでに70歳近い白髪の老人で、千駄ヶ谷にある仙寿院の総門の前で、わら屋根の百姓家を改造した風雅な茶店の主(あるじ)として登場。
もちろん、その茶店は30年ほど前に、巨盗〔法楽寺(ほうらくじ)〕の直右衛門の盗人宿(ぬすっとやど)として手に入れたものである。]

参照:〔法楽寺(ほうらくじ)〕の直右衛門の項)

店は、新日暮(ひぐらしの)里といわれるほど幽谷に雅趣がうりの仙寿院への参詣人を相手に、嘉平の手づくりの草餅が人気。嘉平とすると、故郷で節句につくる鄙びた餅のつもりでだが、在方から江戸へ出てきて住まっている者たちにとっては、わが家ふうの味がうれしいのであろう。

〔法楽寺〕の一味の本拠は、直右衛門の通り名(呼び名)にしている禅宗の法楽寺のある、下野国(しもつけのくに)足利に置かれている。
女賊おみねの亡父・〔助戸(すけど)〕の万蔵も〔法楽寺〕の一味で、嘉平とは気があって仲良くしていたが、甘いものに眼がなく、その上、酒はあびるほど---というので、明和2年(1765)の初夏、あっけなく卒中で歿した。35歳であった。

6歳のおみねと後家となったお紺(こん 27歳)が残された。もっとも、この顛末は、『鬼平犯科帳』では語られていない。

女好きの直右衛門が、後家のお紺を囲ったばかりか、むすめざかりに育ったおみねまで女として練りあげてしまった経緯も、聖典では簡単に明かされているだけである。

【参照】女賊・おみねの項)
直右衛門は老齢とともに糖尿の持病が重くなり、男としての機能が働かなくなっているのとは逆に、おみねのほうは、母親ゆずりの女躰と、耕された性の深淵と悦楽に、男の肌なしではすまなくなっている。
江戸で、そのおみねを監督している嘉平とすると、痛し痒しの心境。

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年齢・容姿:白髪、としか書かれていないが、長く〔盗人宿〕を預かっているところから70歳近いと判断。

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(足利・法楽寺と在方の名草村)
生国:下野(しもつけ)国足利郡(あしかがこおり)名草(なぐさ)(現・栃木県足利市名草中町(なかちょう))。足利市の中心部から約6km。

探索の発端: 四谷の全勝寺の前で、女密偵・おまさが幼な馴染のおみねと出会い、〔法楽寺〕一味はもちろん、〔網切〕の配下まで看視の目がおよんだ。

結末: 〔法楽寺〕一味は、直右衛門がお盗(つと)めを早める気になって上府してき、〔名草〕の嘉平のところに滞在。浅草の盗人宿にいる配下たちと打ち合わすために集まったところを、逮捕された。

この時、いまは火盗改メの密偵となっている〔相模(さがみ)〕の彦十が、かつての縁で顔をさらしたため、密告(さ)したのはおまさでなく彦十とおもわせえた。

つぶやき: 仙寿院は、オリンピック道路が墓地の下を貫通し、境内も墓域だけに縮小、江戸期に新日暮里と文人・遊客を楽しませた面影は、いまは見る影もない。

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(仙寿院庭中 『江戸名所図会』塗り絵師:ちゅうすけ)

400名からの盗賊たちのWho’s Who(名鑑)を、3年ごしにつくってきたが、〔名草〕の嘉平が洩れていたので、この機会に、ほかの者たちとフォーマット(形式)をそろえてつくってみた。

[盗賊たちのWho’s Who] は、当ブログの最初のページの左枠に掲示されているカテゴリーのリストから、[出身県別]と[50音別]にクリックで検索できる。

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コメント

通り名「名草」で思いだしたのですが。2005,4,11付で「にっぽん怪盗伝」の名草の綱六が掲載されてますが、「盗人の通り名索引な行」にはまだ登録されてないみたいなのですが、県別(兵庫県)では登録されています。

投稿: みやこのお豊 | 2008.06.01 21:23

>みやこのお豊さん
いつも貴重なコメントをお寄せいただき、ありがとうございます。

〔名草〕の綱六ですが、当初、このブログは、[盗人探索日録]というタイトルでスタートし、池波さんの小説全篇から、盗人を集めていました。
途中で[『鬼平犯科帳』Who's Who]とタイトルを改め、『犯科帳』の紳士録ということにしました。
それで、50音順には、「白波」の篇に顔をみせた綱六は、『犯科帳』に登場してこないので、入れなかったのだだとおもいます。

それで、ご納得くださるでしょうか。
それにしても、鋭い。

投稿: ちゅうすけ | 2008.06.02 10:44

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