« 〔戸祭(とまつり)〕の九助(きゅうすけ)(2) | トップページ | 〔戸祭(とまつり)〕の九助(きゅうすけ)(4) »

2010.10.22

〔戸祭(とまつり)〕の九助(きゅうすけ)(3)

宇都宮への旅立ちの前に平蔵(へいぞう 33歳)は、深川・黒船橋ぎわの町駕篭〔箱根屋〕で、権七(ごんしち 46歳)のむすめのお(しま 11歳)を呼び出し、連れだって霊巌寺門前町の浄心寺の楼門にいたると、そのかたわらで結び文をしたため、塔中のひとつ、浄泉尼庵を教えてとどけさせた。

_150ほどなく、尼頭巾の日信尼(にっしんに 37歳)があらわれた。

受戒する前のお(のぶ)である。
7年前に、上総(かずさ)国の盗賊一味を抜け、平蔵の世話で茶店〔千浪〕の女将をしていた。

「ここで、立ちばなしでいいか?」
うなずく尼に、
「〔乙畑おつばた)〕の源八(げんぱち 40歳前後)という首領(つとめにん)をしっているか?」
首がふられた。
「そうか。では---」

去りかける平蔵へ、
「あの---」
尼頭巾をとり、剃髪した頭をみせた。
「そうか」
丸頭をくるりとなぜ、
「これで、いいか?」
「---唇で」
「ばか。松造(まつぞう 27歳) 、おの目がある。今度な、日俊老尼に、よしなに---」

その夕べ---。
平蔵は、権七と連れだち、常盤町1丁目の小料理〔蓮の葉〕へ上がった。
女将のお(はす 33歳)が、あいかわらずも媚態で迎えた。

とりあえず、分葱(わけぎ)の酢味噌で酒を酌みながら、
「ここの主(あるじ)に、これを渡してほしい」
結び文を差しだした。
「主(あるじ)って---? 女将はあたしですが---」
「冗談ごとではないのだ」

は、嫣然と笑み、
「お返事は---お屋敷のほうへ---?」
「いや。宇都宮から帰ったら、また、くる」
「宇都宮へは、どんなご用で?」
「大谷石(おおやいし)の仏を拝んでくる」
「そんなみ仏さまがございますの?」
「ま、女将には、生き仏のほうが功徳になろうがな」
「極楽へ行かせてくださる生き仏さまなら----ほ、ほほほ」
新しい酒をとりに立った。

権七にも、紙片を渡した。
---小太り、鼻太く、上唇の小豆(あずき)大の黒子。齢のころ25歳前。
「舁(か)き手に頼んでおいてほしい。乗った町、降りた家がしりたい」
「承知しました。箱根の雲助たちのほうへも手をまわしおきます」
「かたじけない」

権七が、松造(まつぞう 27歳)の盃に酌をしてやっていた。
雀のたたき煮のだんごを箸でつまみあげて、しげしげと見つめている。

松造は、連れあいのお(くめ 37歳)が〔草加屋〕の板場からときどき持ち帰っていたあまりものの菜のおかげで、料理に関心をもつようになっていた。

参照】2010年10月20日~[戸祭(とまつり)の九助] () () (4) () () () (


|

« 〔戸祭(とまつり)〕の九助(きゅうすけ)(2) | トップページ | 〔戸祭(とまつり)〕の九助(きゅうすけ)(4) »

108栃木県 」カテゴリの記事

コメント

大勢の登場人物の中で、掏摸出身の松造も肩入れしている中の一人です。
はぐれ狼みたいだった境遇から、平蔵の下僕になり、誠をつくす人間関係を知り、いまでは10歳年長のお粂と愛を交わしています。
料理の味がわかるようになったのも、その成果といっていいでしょう。
人間的に、どんどん成長していく姿が好ましい。
もっとも、ちゅうすけさんは、描写を控えめにする人だから、こっちでかってに連想をふくらませていますが。

投稿: 文くばりの丈太 | 2010.10.22 05:31

>文くばりの丈太 さん
池波さんも、掏摸を主人公にした短篇をいくつかと、聖典のなかでも3人ほど掏摸を登場させていますよね。
掏摸の知識は長谷川伸師ゆずりでしょう。

松造にはユーモラスな気質もありますから、お勝とともに、もうすこし、いい味をだしてくれたらと願っています。こんごを見守ってやってください。

投稿: ちゅうすけ | 2010.10.22 07:46

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 〔戸祭(とまつり)〕の九助(きゅうすけ)(2) | トップページ | 〔戸祭(とまつり)〕の九助(きゅうすけ)(4) »