おまさと又太郎
そのころ---とは、安永8年(1779)の師走近く、ということだが---。
一人前のおんなになっていた22歳のおまさは、京都にいた。
<乙畑(おつばた)の源八(げんぱち 40代)に京都で仕事がしてみたいと懇願し、〔荒神(こうじん)〕の助太郎(すけたろう 60歳)に紹介(つなぎ)状をもらい、半年ほどそこにいたが、許しがたいことがあり、かねて亡父・鶴(たずがね)〕の忠助(ちゅうすけ 享年53歳)が親しくしていた〔狐火(きつねび)〕の勇五郎(ゆうごろう 58歳)を頼った。
許しがたいこととは、名古屋での大きな仕事(つとめ)の連絡(つなぎ)役として組んでいた男に、岡崎の盗人宿(ぬすっとやど)で、しびれ薬をしこんだ酒を呑まされ、すっ裸にむかれて犯された。
もちろん、おまさは処女(おとめ)ではなく、気のあった相手とは躰をあわせ、その快味も深めつつあった。
しかし、犯した相手は---唇まで白い顔の〔夜鴉(よがらす)〕の仙之助(せんのすけ 30前)といい、縁の下の湿った土のようなその体臭を嗅いだだけで反吐(へど)がでそうな男であったからである。
地元の京都ではめったに仕事(おつとめ)をしない〔狐火〕の作法にしたがい、おまさ、は、近江の彦根城下・本町の鼈甲(べっこう)簪(かんざし)の大店・〔京(みやこ)屋〕へ引きこみに入っていた。
勇五郎の息子の一人---又太郎(またたろう 21歳)が連絡(つなぎ)役の見習いを勤めた。
2代目を鍛えあげる意味もあり、指南役には老練の〔瀬戸川(せとがわ)〕の源七(げんしち 62歳)が、城下のはずれに盗人宿をもうけてあたった。
おまさは、まじめそうな青年・又太郎に好感をいだいた。
本町につづく城町にある稲荷社の境内片隅の楠(くす)の木の下がつなぎの待ちあわせ場所であった。
あるとき、約束の時間に遅れた又太郎が、汗をいっばにかきながらやってきた。
「汗をぬぐましょうね」
御手洗(みたらい)で冷やした手拭いで顔から首筋の汗をとってやり、その若い獣(けだもの)のような匂いにおもわず噎(む)せ、躰の芯がもえた。
で、つい、手が首から胸元まで入ってしまった。
青年はとまどったが、おまさの手拭いは、筋肉がついている乳のあたりを入念に行ききしていた。
「おまささん---」
上ずった声であった。
「遊び場所のおんなには、平気で触らせているんでしょ?」
齢上のおんならしく、おまさが冷やかした。
「そんな---ありません」
「うそ、言って---」
「ほんとです」
手拭を冷やしなおし、
「双肌、脱ぎなさい。背中の汗を拭いてあげる」
いわれたとおりにした又太郎の匂いに、また噎せ、背中から抱きついていた。
「今夜、盗人宿には、だれが---?」
「〔瀬戸川〕の爺っつぁんは、京都です。ほかには誰もいません」
「じゃ、風呂をたてておいて---五ッ半(午後9時)には行くわ」
おまさは、偽の使いを仕立て、身請け人の野瀬村の伯母が急病だからと、あわただしく店をあとにし、途中の酒屋で大徳利を求め、盗人宿には五ッ(午後8時)よりかなり前に着いた。
恥ずかしがる又太郎に酒をすすめ、風呂にいっしょにつかり、聳立したものをもてあそび、自分の乳頭を含ませ、内股の小さな突起にやさしく触れさせ、教える喜悦をあじわった。
ほとんど眠ることはなかった。
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コメント
わざわざ、名前をあげていただき、恐縮です。楽しませていただいているのは私のほうですから。
それにしても、おまささんと又太郎との出会い、どきどき、わくわく、です。
第6巻の「狐火」で、おまささんが又太郎をはじめて男にしてやったことは承知していましたが、こういう経過をたどったんだと、その場面に気が行きました。
おまささんにとっても、又太郎にとっても、思い出にら忘れられない一夜だったでしょう。そして再会は10年後。そのあいだ、切なかったでしょう。
投稿: tsuuko | 2010.11.29 05:45
>tsuuko さん
最初の体験って、男にも女にも一度はあるものてす。[狐火]では、1歳年長の気丈なおまさのほうがリードしたようにおもえます。それで、そのようにつくってみました。
投稿: ちゅうすけ | 2010.11.29 07:49