辰蔵のいい分(4)
待っていても相手の唇がこないので、奈々(なな 16歳)は薄目で、平蔵(へいぞう 38歳)をうかがった。
奈々の両肩をつかんだままの平蔵は、あらわになっている奈々の両の乳房に目をすえていた。
光を透すほどに青白かったふくらみは、ほんのりと淡い桜色に染まりはじめていた。
(昂まりはじめたときの里貴もこうだ。なぜだ? なぶっても、挿(い)れてもいないのに---)
「奈々---」
閨(ねや)でのささやきのように呼びかけた。
「あい---」
ひらかれた両眸(りょうめ)は、躰の発火を映したように潤(うる)んでいた。
「おことは、里貴の跡継ぎだ」
「あい---」
「あれ以上の女性(にょしょう)にならねばならない」
「あい---」
「われは、そなたはそれだけの玉だと見ておる」
「う、れ、しい」
「玉は磨かねば輝かない」
「? ---おじさまが磨いて」
「いや。男とおんなのあいだのことではなく、おなごとしての品格のことだ」
「品格---?」
「風格といいかえてもいい。それをそなたはいま、於良(よし)お婆(ばば)から学んでいる」
「あそこには、もう、通われへん。辰蔵さまが知ってます」
「だから、お婆に〔季四〕へ来てもらう。権七(ごんしち 51歳)のところのお
お島は、仮りの座敷女中として〔季四〕を手伝っていた。
むすめ同士、競いあえば、伸びもすすむというものだ。
ささやきの対話を終えたとき、腰丈の寝衣からかもでている首筋から頬のあたり、乳房、片膝立てた太腿(ふともも)の向うずねも紅潮しきっていた。
(三歩退(ひ)き、一歩出る)
突然、高杉銀平師の声が降ってきたのには、苦笑した。
(高杉先生。いまの場合、五歩退くことはあっても、一歩出ることはありませぬ)
【参照】2009年11月17日~[三歩、退(ひ)け、一歩出よ。] ( f="http://onihei.cocolog-nifty.com/edo/2009/11/post-2274.html">1) (2) (3)
このまま突きはなすのは可哀そうとおもったし、男としては心残りでもあったが、
「聞きわけてくれてうれしい。ゆっくり、寝(やす)むがよい」
階段をおりると、暗がりの中で看護のお専(せん 24歳)が立っていた。
「お部屋の方がお待ちです」
病床へ座ると、か細く、
「奈々がご厄介をおかけしたようで---」
「案ずることではない。辰蔵が待ち伏せて奈々を口説いたそうなので、礼法の手習い教場を店開け前の〔季四〕に変えることにした」
「---よろしゅうに---.」
平蔵の掌をにぎった腕の力は弱々しかった。
秋虫の鳴き音だけがしとどであった。
【ちゅうすけ記】奈々の紀州・貴志村ことばは、和歌山出身のアートディレクター・北山隆弘さんの指導をうけています。
| 固定リンク
「006長谷川辰蔵 ・於敬(ゆき)」カテゴリの記事
- 月輪尼の初瀬(はせ)への旅(4)(2011.11.05)
- 月輪尼、改め、於敬(ゆき)(4)(2011.11.26)
- 月輪尼、改め、於敬(ゆき)(2)(2011.11.24)
- 月輪尼、改め、於敬(ゆき)(3)(2011.11.25)
- 養女のすすめ(7)(2007.10.20)
コメント