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2011.08.01

辰蔵のいい分(4)

待っていても相手の唇がこないので、奈々(なな 16歳)は薄目で、平蔵(へいぞう 38歳)をうかがった。

奈々の両肩をつかんだままの平蔵は、あらわになっている奈々の両の乳房に目をすえていた。
光を透すほどに青白かったふくらみは、ほんのりと淡い桜色に染まりはじめていた。
(昂まりはじめたときの里貴もこうだ。なぜだ? なぶっても、挿(い)れてもいないのに---)

奈々---」
閨(ねや)でのささやきのように呼びかけた。
「あい---」
ひらかれた両眸(りょうめ)は、躰の発火を映したように潤(うる)んでいた。

「おことは、里貴の跡継ぎだ」
「あい---」
「あれ以上の女性(にょしょう)にならねばならない」
「あい---」
「われは、そなたはそれだけの玉だと見ておる」
「う、れ、しい」
「玉は磨かねば輝かない」
「? ---おじさまが磨いて」
「いや。男とおんなのあいだのことではなく、おなごとしての品格のことだ」
「品格---?」
「風格といいかえてもいい。それをそなたはいま、於(よし)お婆(ばば)から学んでいる」
「あそこには、もう、通われへん。辰蔵さまが知ってます」
「だから、お婆に〔季四〕へ来てもらう。権七(ごんしち 51歳)のところのお島(しま 19歳)も、お(くめ 42歳)のむすめのお(つう 16歳)も同門だ」

は、仮りの座敷女中として〔季四〕を手伝っていた。

むすめ同士、競いあえば、伸びもすすむというものだ。

ささやきの対話を終えたとき、腰丈の寝衣からかもでている首筋から頬のあたり、乳房、片膝立てた太腿(ふともも)の向うずねも紅潮しきっていた。

(三歩退(ひ)き、一歩出る)
突然、高杉銀平師の声が降ってきたのには、苦笑した。
高杉先生。いまの場合、五歩退くことはあっても、一歩出ることはありませぬ)

参照】2009年11月17日~[三歩、退(ひ)け、一歩出よ。] ( f="http://onihei.cocolog-nifty.com/edo/2009/11/post-2274.html">1) () (

このまま突きはなすのは可哀そうとおもったし、男としては心残りでもあったが、
「聞きわけてくれてうれしい。ゆっくり、寝(やす)むがよい」

階段をおりると、暗がりの中で看護のお(せん 24歳)が立っていた。
「お部屋の方がお待ちです」

病床へ座ると、か細く、
奈々がご厄介をおかけしたようで---」
「案ずることではない。辰蔵が待ち伏せて奈々を口説いたそうなので、礼法の手習い教場を店開け前の〔季四〕に変えることにした」
「---よろしゅうに---.」
平蔵の掌をにぎった腕の力は弱々しかった。

秋虫の鳴き音だけがしとどであった。


ちゅうすけ記】奈々の紀州・貴志村ことばは、和歌山出身のアートディレクター・北山隆弘さんの指導をうけています。

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