奈々(なな)と月魄(つきしろ) (2)
「奈々(なな 18歳)。鞍なしの裸の月魄(つきしろ)を乗りこなすには、済ましておかねばならぬことが、2つある」
「あい」
2人はことを終え、満ちたり、仰臥し、憩(やす)んでいる。
「裸馬を乗りこなすのは、男を乗りこなすより難しい」
両足をささえる鐙(あぶみ)がないからである。
そのためには、両膝で月魄の腹を、長時間しめつける練習をする必要がある。
奈々が平蔵(へいぞう 40歳の腹にまたがり、膝をしめつけた。
脇腹と奈々の膝とのあいだに肘をはさみ、押し返した。
奈々はしめつけようとするが、平蔵の腕の力が強かった。
しばらく膝と肘でもみあっているうちに、奈々が
「あゝ------」
力をぬいてうつぶせてきた。
「どうした? 案外、疲れるものだろう?」
「ううん。そうじゃなく、よくなってきちゃったん」
「なに---?」
手をあてると、濡れていた。
「これじゃあ、月魄を昂(たかぶ)らせてしまうな」
月魄ではなく、平蔵のほうが興奮してきていた。
奈々が腰をうかせ、そっと下へ移し、導いた。
「裸の月魄を乗りこなす時には、やはり、月輪(がちりん 25歳)の尼どののように、下帯をつけるんだな」
「そやけど真ん中に寄って紙縒(こより)になってもうて、あてとる意味がのうなりそうやん。男はんとちがうて、うちらには包んどくもんがあらへんよって」
たしかに。縒(よれ)たら、こまるでろう。
しかし、平蔵は別の幸せ感にひたっていた。
月魄を浅草の三歳馬市で目にしたときから、自分にというか、自分なわりにいいものをもたらしてくれそうな予感がしていたが、奈々に親密---というか、 こころを許しあった友たちになってくれそうなことがその一つであった。
奈々は紀州の貴志村からき、里貴(りき 逝年40歳)が逝ってから独りでやってきた。
「奈々。裸の月魄に乗るために済ましておくことの2つ目---」
「あい---」
2度目の満ち潮に酔っている奈々がうっすらと応えた。
「4人いる座敷女中のむすめたちの中から、奈々の代理がつとまる女中頭(がしら)をえらぶこと。もし、紀州からきているむすめからえらんだら、女中頭の助(すけ)は信州・佐久のむすめから決める。そして、のこった2人を寮長、寮長助にすえること」
「いそぎますのん?」
「奈々が、昼間に月魄で遠出をしてもいいようにするためだ」
「あ、それなら、明日にでも---」
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コメント
艶っぽい閨ごとかとおもえば、茶寮の運営の話しをしている---不思議な2人ですね。
いや、中年男の夢が書かれているのかもしれません。
それにしても奈々は、現代的で魅力があります。
投稿: 左兵衛佐 | 2011.10.05 05:52
>左兵衛佐 さん
そ! 中年男の夢物語。しかし、平蔵は実在の人物。架空は奈々のほう---そう、割り切ってお楽しみください。
投稿: ちゅうすけ | 2011.10.05 13:24