月輪尼の初瀬(はせ)への旅(2)
「それから、明日からは蓮華庵にて、尼どのの旅に携える品と、落ち着いた先へあとで送り荷するものとを仕分けし、後送りの荷はここへ運んでおくように---」
平蔵(へいぞう 40歳)は、月輪尼(がちりんに 24歳)が思案しそうな先の先まで見とおしたように、辰蔵(たつぞう 16歳)に指示した。
旅程にも気くばりを怠らなかった。
「尼どのは月魄(つきしろ)で馬上とはいえ、けっこう疲れがでるものだ、無理な里数をかんがえるでないぞ。そなたは4歳のときに京から中山道を旅しておる」
「幼いころのこととて、ほとんど記憶にありませぬ」
「ならば、ゆるゆると見物をしていけ。この際、見分をひろめておくことだ。尼どのも、急いで初瀬(はせ)へ着くことはのぞんでおるまい」
辰蔵がつくり、さし出した旅程は、
第1泊 大宮宿 江戸か7里4丁(28.5km)
第2泊 熊谷宿 大宮宿から8里30丁(35km)
第3泊 新町宿 熊谷宿から7里20丁
第4泊 安中宿 新町宿から6里17丁(26km)
第5泊 坂本宿 安中宿から5里16丁(22km)
うすい峠越え
第6泊 沓掛宿 坂本宿から5里16丁(22km)
第7泊 芦田宿 沓掛宿から7里27丁(31km)
第8泊 下諏訪宿 芦田宿9里36km)
第9泊 下諏訪宿 諏訪明神など
第11泊 贄川宿 下諏訪宿から7里10丁(30km)
第12泊 宮の越宿 贄川宿から5里1丁(20km)
第13泊 須原宿 宮の越宿から8里15丁(36km)
第14泊 妻籠宿 須原宿から6里弱(24km)b;w@
これで京へ半分の旅程(後半略)
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馬丁の幸吉(こうきち 20歳)にも、月魄に尼を乗せて大和の長谷寺まで送りとどけることになるから支度をととのえておくように命じた。
「若いうちに諸国を見ておくことは、のちのちのためにもなる」
3人の出発前に、平蔵は一行の旅程を〔音羽(おとわ)〕の重右衛門(じゅうえもん 58歳)にわたし、中山道で顔のきく元締衆へそれとなく伝え、見守ってやってほしいと頼んだ。
「いったい、誰が長谷寺へ告げ口をしたか、わかったらただではおきません」
「いや、元締。いずれしれるとおもっておりました。決着がついて、かえってすっきりするというものです」
「長谷川さまがそのようにおかんがえであれば、探索はひかえておきます」
「いつもご配慮いただくばかりで、恐縮です」
「なに、辰蔵さまを尼どのにお引きあわせ申したのは手前でございますから---」゛
【参照】2011年8月5日[辰蔵のいい分][(8)]
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