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2005.05.23

〔草間(くさま)〕の貫蔵

『鬼平犯科帳』文庫巻12に所載の好篇[密偵たちの宴(うたげ)]に登場して、〔大滝(おおたき)〕の五郎蔵に見破られる、流れづとめの荒っぽい盗賊。
(参照: 〔大滝)〕の五郎蔵の項)
かつて〔大滝〕一味が駿府(静岡市)で盗めをしたとき、手が足りなくて、当時は配下になっていた〔岡ノ井(おかのい)〕の弁五郎の紹介で貫蔵がやってきたが、畜生ばたらき専門の男と見た五郎蔵は、ただちに断った。
(参照: 〔岡ノ井〕の弁五郎の項)

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年齢・容姿:50近く。低い背丈、ほっそりした躰つき。右足首が歩くとき不自由。
生国:三河(みかわ)国渥美郡(あつみごうり)草間村(現・愛知県豊橋市草間町)。
『旧高旧領』はほかに、信濃(しなの)国高井郡草間村(現・長野県中野市草間)と備中(びっちゅう)国阿賀郡草間村東組・西組(現・岡山県新見市草間)をあげている。
『大日本地名辞書』(冨山房)もこの2村。
駿府での盗めでの助(す)けばたらきということで、同じ東海道筋生まれなら土地勘があるだろうと推測し、豊橋市の草間を採った。

探索の発端:畜生ばたらきの盗めばかりが横行するご時世に、憤(いきどう)りを覚えていた密偵の中核メンバーたち---〔大滝(おおたき)〕の五郎蔵、〔小房(こぶさ)〕の粂八、伊三次、〔相模(さがみ)〕の彦十、〔舟形(ふながた)〕の宗平らが、本格の盗みの手本を示してやろうと、浅草・橋場(はしば)の町医者・竹村玄洞(げんどう)宅へ目ぼしをつけた。
(参照: 〔小房〕の粂八の項)
(参照: 伊三次の項)

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橋場の渡し・思い川(『江戸名所図会』 塗り絵師:西尾 忠久)

で、〔大滝〕の五郎蔵が竹村宅の下見に、浅草・山谷(さんや)の浅茅ヶ原(あさじがはら)を歩いていて、35,6の女とつなぎをつけている貫蔵をみかけた。
女は、竹村家に住みこんで引き込みをしている。竹村宅と貫蔵には火盗改メの見張りがついた。

結末:竹村宅を襲ったのは〔鏡(かがみ)〕の仙十郎一味15名で、うち2名が雇われ用心棒の浪人に斬られ、5名が火盗改メに斬り殺され、8名はすべて捕縛。
(参照: 〔鏡〕の仙十郎の項)
〔鏡〕の仙十郎は、市中引き回しの上、磔刑。ほかは死罪。

つぶやき:密偵の中核として鬼平の信任のあつい五郎蔵や粂八たちが、世の盗賊たちに手本を示してやろうと盛り上がったとき、たしなめ役にまわったのがおまさだった。
(参照: 女密偵おまさの項)
さて、中核密偵たちの半分いたずら気分、半分は本気の模範演技は、〔鏡〕一味の逮捕劇のあと、警戒の薄くなった竹村宅で実行され、その盗め金はきちんと返却された。

この篇の読みどころは、模範演技を見破った鬼平が、おまさに五郎蔵へ伝えておけと、
「もしも万一のことあって、わがわがふところに抱きぬくめている者の失敗(しくじり)があるときは、主人(あるじ)たる者が腹を切って申しわけをせねばならぬ、と----」
さあ、それを告げたあとのおまさのセリフが見もの、いや、聞きものである。

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コメント

わたしのベスト10の中の1篇です。

酒盛りがたけなわになると、だんだんに、昔はよかったばなしになり、模範のお盗めをやってみせるかとなり、それじゃあ---に落ち着くすじみちは、なんだって、こうですもの。

でも、邪魔がはいり、そのとき、五郎蔵さんがみごとに相手から鍵を奪ってしまう---なんて筋書きは、偶然にヒラメいたのでしょうね。

それを、乱闘の捕り物の中で、ちゃんと鬼平さん、見てらっしゃる。
たのもしくて、こわいお人ですね。

投稿: 練馬の加代子 | 2005.05.25 03:12

五郎蔵が竹村邸を下見しているときに見つけた〔鏡〕の仙十郎一派。
なぜそんなところにいたのかと平蔵に訪ねられた時点で、読み当てられることを予想しておけばよかったのに、
さらに〔鏡〕の仙十郎らが捕らえられ、他の皆は忘れた頃だったとしても、盗んだものを再び元に戻すなんてことをしてしまえば、ばれるってもんです。

あぁ、盗んじゃったよ、あぁ、やっぱり見つかっちゃった
と思って読んでました。

他の盗賊と盗み先がぶつかるということは《よくあること》なんでしょうか。
確か、「一本眉」もそうでしたね。

投稿: 豊島のお幾 | 2005.05.25 13:58

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