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2005.05.31

〔亀穴(かめあな)〕の政五郎

『鬼平犯科帳』文庫巻1に収録されている[暗剣白梅香]の、本筋とは関係がないようなかたちで登場する人物。この篇の本筋は、敵持ちでいまは仕掛人となっている浪人・金子半四郎が、長谷川平蔵の暗殺を引き受けてさまざまに工夫を凝らすところにある。
(参照: 浪人・金子半四郎の項)
しかし、この篇から2話おいた、文庫巻2の巻頭[蛇(くちなわ)の眼]の主役は〔蛇(くちなわ)〕の平十郎だが、それを予告するように、平十郎の軍師役としてチラッと語られる。
(参照: 〔蛇〕の平十郎の項 )

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年齢・容姿:どちらも記述がない。それだけに不気味な予感を読み手に与える。
生国:三河(みかわ)国額田郡(ぬかたこうり)亀穴村(現・愛知県額田郡額田町宮崎)。
池波さんがつねに座右に置いていた『大日本知名辞書』は、「宮崎 今宮崎と云ふ、大平川の源にあり、本宮山を以て宝飯郡に堺し、雨山、亀穴などの大字あり」。
また『甲陽軍鑑』から「天正元年、信玄公三州宝来寺表へ御馬を移され、岡崎筋へ向かひ、上道四里こなた、宮崎に取出を被仰付」を引いている。
『角川地名大辞典』は、万足平に北辰妙見尊が亀に乗って降臨し、のち亀のみ留って石に化したという亀石伝説」による地名の由来を紹介している。

探索の発端:いまは密偵となって、鎌倉河岸に屋台店を出して噂を集めている〔小房(こぶさ)〕の粂八の耳に、「亀穴(かめあな)の人が、江戸へ入(へえ)ったそうな」との会話が流れこんだ。
粂八は、〔亀穴〕の政五郎が〔蛇〕一味の軍師であること、一味の江戸での盗めにが近いことを鬼平へ告げた。
(参照: 〔小房〕の粂八の項)

結末:どうしたことか、文庫巻2[蛇(くちなわ)の眼]には、〔亀穴〕の政五郎は軍師役としては登場しない。

つぶやき:[蛇の眼]は、シリーズが始まってまだ8話目なのに、一味の軍師役が消えるというような手ぬかりが起きていることに、編集担当者は気づかなかったのだろうか。


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コメント

金子半四郎のつけていた「白梅香」どんなによい香りだったのでしょうか。

羽衣煎餅の「近江や」のお内儀も使っている新しい髪油だとか。

浮世絵の美人画に白粉の「美艶仙女香」や髪油の「美玄香」の宣伝をみかけます。

何時の時代も女性はおしゃれの流行に敏感だったんですね。

それにしても男性の半四郎はどんな顔して買いに行ったのでしょうか。

「白梅香」を売り出した池之端の「浪花や」って買い物案内に載っていますか。

投稿: みやこのお豊 | 2005.06.02 22:32

>みやこのお豊さん

髪油や白粉・紅などの化粧品を専門に扱っていたのは、「御加羅之油」という業種の店だったようです。

池之端仲町にあったのは、〔浪花や〕ではなく、〔萬屋〕吉兵衛の店でした。

『江戸買物独案内』には、〔浪花や〕という「御加羅之油」扱い店は載っていません。
池波さんの創造です。

白梅香は、白梅の香に似せて調香したのではないでしょうか。

投稿: ちゅうすけ | 2005.06.04 14:12

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