〔鳥羽(とば)〕の彦蔵
『鬼平犯科帳』文庫巻18に所載の[草雲雀]は、同心・細川峯太郎が、かつてなじんだことのある寡婦お長の熟(う)れた躰を忘れかね、墓参にことよせて権之助坂のあたりへ近寄った。そこで、人相書で見おぼえていた盗賊〔鳥羽(とば)〕の彦蔵に出会う。
彦蔵は、お長の茶店の北隣の雑貨を並べている〔かぎや〕の女主人おきぬと密通するために権之助坂へ現れたのである。
年齢・容姿:37,8歳。身の丈、5尺3寸ほど(約160センチ)、中肉中背。色白く目の中細く、片方の耳たぶがない。
生国:近江(おうみ)国坂田郡(さかたこうり)鳥羽上(とばがみ)村(現・滋賀県長浜市上鳥羽町)
まっ先に三重県鳥羽市を想定するのがふつうだが、『旧高旧領』にはひっかからない。すなわち、鳥羽市に合併された「鳥羽」という村はなかったとみていい。
山城国紀伊郡上、下鳥羽村だが、「鳥羽・伏見」などといわれているように、いささか広範囲にすぎる。
信濃国安曇郡上、下鳥羽村だと、出雲国江島出身の由五郎とのつながりが判然としない。1昨秋、〔江嶋〕の由五郎とその一味が浅草・馬道の乾物問屋〔伊勢屋半兵衛〕方へ押しこんだところを火盗改メが捕縛にしたが、〔鳥羽〕の彦蔵のみ、巧みに逃げおうした。人相書が捕らえられた一味の口述からつくられていた。
(参照: 〔江嶋〕の由五郎の項)
しかも、次のお盗めは伊勢の桑名にゆかりのあるところというから、上方の出でと推量、長浜市の「鳥羽上」を採った。長浜あたりは、忍者ものや木下藤吉郎の取材で、池波さんは土地勘がある。
探索の発端:白金10丁目で、細川同心が彦蔵を見かけて尾行、〔かぎや〕へ入ったことから
火盗改メの出役となった。
結末:〔かぎや〕のおおきぬの亭主、〔瀬川(せがわ)〕の友次郎が、彦蔵に撲殺されたのをきっかけに、包囲してしていた火盗改メが踏みこみ、逮捕。
(参照: 〔瀬川〕の友次郎の項)
つぶやき:コメディ・リリーフの木村忠吾が齢をへるにつれてそれなりに成長してききたので、彼の代わりをつとめるキャラが必要となった。
それが細川峯太郎なのだろうが、忠吾の生得のものともいえる明るさが、峯太郎にはない。コメディ・リリーフ役はかなり無理。
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コメント
私をくすぐるキーワードが満載 (の2乗) です。
私の思っていた〔鳥羽〕とは違って、
ちょっと、ホっといたしました。
しかし、まあ、いつもながら、
生国の推し量り方・・・おもしろい!です。
投稿: 〔蓮沼〕のしん兵衛 | 2005.08.29 11:22
細川峰太郎は、弱いところを沢山持った、「人間臭い」キャラクターだと思ってましたが、
そんな役つけだったのですか。
老若男女に人気のある,愛すべき忠吾には
とても叶いませんね。
投稿: みやこのお豊 | 2005.08.29 12:42
>〔蓮沼のしん兵衛さん
伊勢の「鳥羽」でもよかったのですが、いけなみさんの旅行記に伊勢の鳥羽がでてこないので。
>みやこのお豊さん
>細川峰太郎は、弱いところを沢山持った、「人間臭い」キャラクターだと思ってましたが---
そうなんですが、明るさの点で、みんなに愛されるところまでいかないのでは。
いや、ぼくだけの独断かも。
投稿: ちゅうすけ | 2005.08.31 17:17