〔土蜘蛛(つちぐも)〕の金五郎
『鬼平犯科帳』文庫巻11に収まって、[土蜘蛛の金五郎]のタイトルにもなっている〔土蜘蛛(つちぐも)〕〕の金五郎は、越後・越中から信州へかけてをテリトリーにしている盗賊の首領だった。
江戸での一仕事をたくらみ、それには邪魔になる火盗改メ方の長官・鬼平を片づけてからと、腕利きの浪人たちを飼っていた。
その一方で、あこぎに手に入れた金子(きんす)のほんの一部をあてて、三ノ輪のはずれに格安の一膳飯屋を開き、善根をほどこしている気になっている。
年齢・容姿:50がらみ。品はよい。中肉中背。色は浅黒く、目玉が大きい。
生国:テリトリーは越後・越中から信州とあるが、肌色が浅ぐろいというから、越後・越中をはずすと、信州(長野県)がのこった。甥・山本弁二郎が信州・上田で医者をしていたとあるから、信濃(しなの)国小県郡(こがたこおり)上田(現・長野県上田市)だろう。
(参照: 医生・山本弁ニ郎の項)
探索の発端:市中見廻りの途中、立ち寄った下谷・車坂代地の蕎麦屋〔小玉屋〕で、格安の飯屋の噂話を小耳にはさんだ鬼平が、疑いをいだいて内偵をはし
じめた。
結末:金五郎は、浪人・木村五郎蔵(じつは鬼平の化け姿の偽名)の腕を見込んで、鬼平の惨殺を依頼した。
鬼平に扮した岸井左馬之助との壮絶な組太刀を演じ、止どめをさしたふうにみせかけ、金太郎から50両をせしめた上で、全員逮捕。金五郎は磔刑だろう。
つぶやき:鳥山石燕『画図百鬼夜行』に描かれている「土蜘蛛」という妖怪の名は、文庫巻2[埋蔵金千両](『オール讀物』1968年3月号)の主人公・万五郎に冠していたが、それから5年後の12月号の本篇にうっかり同じ「通り名(呼び名)」をつけてしまったために、読者から指摘があったのだろう、万五郎のほうは出生地の〔小金井〕に変えられた。
(参照: 〔小金井〕の万五郎の項)
絵としてはそれほどのことはない「土蜘蛛」ではあるが、非道盗賊の「呼び名」として「土蜘蛛」という妖怪名を、池波さんはかなり気にいっていたのかもしれない。
絵に添えられているのは、「源頼光土蜘蛛を退治し給ひし事、児女のしる所也」
源頼光が渡辺綱を伴い、京・西山の土蜘蛛を退治した。岩場から蜘蛛を睨んでいるのが頼光か。
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コメント
古代,ヤマト王権の勢力に従わない集団の名前でもあったりしますねえ>土蜘蛛
能や歌舞伎の曲名でもあったりします。(頼光の話)
蜘蛛というカタチで描かれているけれど、蔑んだ人の呼称なんでしょう。
投稿: 豊島のお幾 | 2005.11.21 01:45
すると、ヤマタノオロチみたいなものかな。
投稿: ちゅうすけ | 2005.11.21 05:40