〔小鼠(こねずみ)〕の安兵衛
『鬼平犯科帳』文庫巻10に所載[犬神の権三]で、〔雨引(あまびき)〕の文五郎が、襲ってくるはずの〔犬神(いぬがみ)〕の権三郎を待ち受けるために、仮の宿を貸したのが、千住大橋の南詰、誓願寺(荒川区南千住6丁目)の脇で小さな桶屋をやっている安兵衛である。
(参照: 〔雨引〕の文五郎の項)
(参照: 〔犬神〕の権三郎の項)
千住大橋左詰に誓願寺(『江戸名所図会』 塗り絵師:西尾 忠久)
盗人稼業から10年も前に足を洗っているから、本来ならば〔桶安(おけやす)〕と紹介すべきだが、本格派の首領〔西尾(にしお)〕の長兵衛と組んで---などと書かれているので、往時の「とおり名(呼び名)」の〔小鼠(ねずみ)〕の安兵衛でいきたい。
(参照: 〔西尾〕の長兵衛の項)
年齢・容姿:70近い。小柄な細い躰をきびきびと動かして、食事の支度をする。
生国:遠江(とおとうみ)国長上郡(ながかみこおり)鼠野村(現・静岡県浜松市鼠野町)。
伊勢、尾張、三河あたりをテリトリーとした〔西尾〕の長兵衛と組んだとすると、遠江あたりがふさわしかろう。
探索の発端:筆頭与力・佐嶋忠介がせっかく捕らえた〔犬神〕の権三郎を牢破りさせたのが、密偵になってさほどに歳月が経っていない〔雨引〕の文五郎とわかるや、火盗改メは探索にとりかかった。
一方で、権三郎の行動を見張っている。
結末:権三郎は、いっしょに盗めたときの盗め金の金額をごまかしたのを文五郎が責めていると誤解したが、じつは、文五郎が牢破りをさせたのは、かつて病妻の面倒をみてもらった恩返しのつもりだった。
だから、権三郎を追った火盗改メが安兵衛の家を取り囲んだとき、短刀で胸を刺して自裁して果てた。
安兵衛の過去の詮索はなし。
つぶやき:この世は人と人の誤解でなりたっている---というのが、長谷川伸師譲りの池波さんの人生哲学でもある。だから、つぎつぎと小説が生まれる余地があるのだとも。
この篇は、それを主題にして重い物語に仕上げられている。
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コメント
92歳の鬼平ファン
先日、NHKで92歳になる精密町工場の社長のモノづくり哲学を描いた番組を放映していました。
奥さんに先立たれ一人暮らし。
そろそろ70代の次世代に社長の座を譲りたいということでしたが、趣味は?との問いに答えて、「鬼平を読むこと」と嬉しそうに応えていたのが印象的でした。
なんだか嬉しくなりました。
もうひとつご報告します。
広研レポートの連載は、もう暫く続くことになりました。
投稿: ヌマピー | 2006.01.27 12:33
>ヌマピーさん
興味深いニュース、ありがとうございました。
それと、連載、つづくそうで、なにより。期待しています。
投稿: ちゅうすけ | 2006.01.29 10:49