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2006.02.09

〔鈍牛(のろうし)〕の亀吉

『鬼平犯科帳』文庫巻5に収録されている[鈍牛]の主人公は、いささか知恵遅れで動作も言葉もゆっくりめなので〔鈍牛(のろうし)〕と綽名をつけられている。
6年前に下総・佐原で母親が病死、その母親のいいつけで深川の釣具師の女房におさまっていた伯母をたよって上府し、深川・相川町の菓子舗〔柏屋〕へ奉公していたのが、ある夜、隣の熊井町の蕎麦屋〔翁庵〕へ放火し、どさくさにまぎれて8両を盗んだと、「晒し者」になっている。

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年齢・容姿:25歳。ぽってりと太り気味。八の字のような眉に点をうったような眠たげな両眼。ちょこんと上を向いた鼻。ようするに童顔なのだ。
生国:常陸(ひたち)国鹿島郡(かしまこおり)鉾田(ほこた)村(現・茨城県鹿島郡鉾田町鉾田)。
精薄児・亀吉を産んだために離縁された母親は、上総(かずさ)・下総(しもうさ)と流れて、潮来(いたこ)の女郎屋にいた。その母親が死んだので上府。

探索の発端:亀吉は真犯人をかばって冤罪をかぶったのだと土地(ところ)の者たちが噂していると、深川で船宿をあずかる〔小房〕の粂八が同心・酒井祐助へ告げた。
(参照: 〔小房〕の粂八の項)
南町奉行の池田筑後守へ処刑延期を依頼した鬼平は、亀吉が晒されている現場へ張り込んだ。
と、人だかりのなかに、亀吉と視線をまじえた男がいた。
亀吉の母親のなじみ客だった安兵衛で、亀吉には菓子などを与えていたという。亀吉は、放火現場で安兵衛を見かけ、「だれにも言うな」といわれたので、身代わりに立った次第。
(参照: 下総無宿の安兵衛の項)
結末:安兵衛は、晒しのうえ火あぶりの刑。
拷問で亀吉からウソの自白を引きだした密偵の源助は、八丈島へ島送り。
田中同心は、身分と役目を召しあげられ江戸追放。

つぶやき:池波さんの初期の戯曲に[鈍牛]という、売れない画家が大金を拾い、持ち主が現れなかったので下げ渡されたために起きるドタバタを描いたものがある。現代劇---といっても、終戦後の昭和20年代後半あたり、みんな貧しかった時代を描いている。
この篇とはなんのつながりもない---が、しいていうなら、庶民の深い人情味が共通している。

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