〔青坊主(ぬのや)〕の弥市
『鬼平犯科帳』文庫巻2の[密偵(いぬ)]は、寛政3年(1791)の事件である。
主人公、一膳飯屋〔ぬのや〕の亭主・弥市は、いまは長谷川組の筆頭与力・佐嶋忠介の下で働く密偵だが、佐嶋が前火盗改メ・堀帯刀組の与力を勤めていた天明6年(1786)に捕縛され、きびしい拷問に耐えかね、属していた〔荒金(あらがね)]の仙右衛門一味のことを吐く。
ために〔縄ぬけ〕の源七を除く全員が処刑されていた。
一方、当時〔青坊主(あおぼうず)〕の「通り名(呼び名〕)で呼ばれていた弥市は、佐嶋与力に見込まれて密偵となり、人通りの多い奥州・日光両街道の下谷・坂本町3丁目にめし屋〔ぬのや〕を与えられ、女房・おふく(25歳)、少女・おさいとともにしあわせな日々をおくっている。
近江屋板・坂本町3丁目あたり。横に延びている奥州・日光街道。
赤○〔ぬのや〕その左、切れ込んでいる道の先は英信寺。
そこへ、〔夜兎(ようさぎ)〕の角右衛門一味K〔乙坂(おとさか)〕の庄五郎があらわれ、生き残った〔縄ぬけ〕の源七の居所が知りたかったらと、合鍵づくりを強要。
(参照:〔荒金〕の仙右衛門の項)
(参照:〔縄ぬけ〕の源七の項)
(参照:〔夜兎〕の角右衛門の項)
(参照:〔乙坂〕の庄五郎の項)
年齢・容姿:むっくりと肥えた躰。女房・おふくより15歳上の40歳。盗人時代は青坊主だったがいまは髷を結っている。
生国:捨子(すてご)なので不明。拾って育ててくれたのは、町を流して歩くつけ木売りの老人---とあるから江戸育ちかも。7歳のときに老人は病死し、弥市は悪の道へ。
探索の発端:〔荒金〕一味だったときのことは書かれていない。
〔乙坂〕の庄五郎のことは、佐嶋与力に伝えてあり、合鍵づくりのために家をあける亭主を疑って尾行した女房おふくが佐嶋与力に疑われ、〔ぬのや〕が見張られる。
結末:〔乙坂〕の庄五郎へ連絡(つなぎ)をつけに行く弥市が長谷川平蔵と同心・山田市太郎が尾行され、住吉町・へっつい河岸の奈良茶漬屋〔巴〕で、〔乙坂〕と〔縄ぬけ〕の源七が捕縛された。
死罪であろう。
つぶやき:密偵は旧仲間からは〔いぬ〕と呼ばれ、いつ仕返しされても仕方のない身分である。
そのやるせない境遇にある弥市の人生が、突然に、明から暗へ転じるさまが、みごとに描かれていて、ともすればさっそうともみえる密偵の真の運命が浮き上がる。
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