蓮華院の月輪尼(がちりんに)(4)
「おじさま--」
奈々(なな 16歳)がかすかに声を発した。
「奈々。そうではないのだ。ここへこい」
平蔵(へいぞう 38歳)が小声で呼んだ。
近づいた奈々へ、
「手を貸せ、お専(せん 24歳)を寝転がす」
2人して膝から降ろし、寝させ、裾をあわせ、
「奈々。そなたも心得ていよう、出事(でごと)のことは---」
平蔵は裾をひらき、下帯の前を片寄せ、
「このとおり、起きてもおらぬ」
示した。
「わかった。おじさま、上で呑みなおそ」
片口に注ぎたし、小椀を2ヶかかえ、玄関へまわろうとする奈々を引きとめ、
「里貴(りき 39歳)は眠り薬で深く眠っておる」
寝間から薄布団をとってきてお専にかけ、行灯を持ち、里貴の寝息をたしかめ、2人で上階へ直行した。
落ちつくと、
「奈々。さっき見たものは忘れよ。そうしないと、お専がこの家におられなくなる。困るのは、奈々とわれだ」
「そやね。忘れよぅ」
お互い小椀に口をつけたところで、
「おじさま。お願い、おじさまのもの、もう一度、見せて---」
「見て、どうする---?」
「よく、見たいん---」
「おかしな乙女(こ)だ」
「うん、怪(け)ったい乙女(こ)やの、うち---」
硬直しないことを念じながら、裾を割った。
息をつめた奈々が、双眸(りょうめ)を輝かせて瞶め、つばを呑みこんだ。
「あ、動いた」
むくむくと挙立してしまった。
「奈々に驚いたんね---ええ子やん、ええ子や」
触(さわ)られた。
ますます、反りかえった。
「奈々のんに会わせてあげっから、ちょい待ちィ---」
帯を解きはじめた。
「奈々。よしなさい」
「でも、おじさまのん、奈々に会いたがっとるやん」
いいながらも、着ているものをすっかり脱ぎすて、腰丈の閨衣(ねやい)をはおっただけで片膝を立て、座った。
「ええ子、見てみぃ、奈々よ。あいさつ、しい。あ、ぴくぴく、あいさつしとぅる。可愛いィ---」
手をのばして引き寄せようとしたので、平蔵があわてた。、
「もう、遅い。帰らないと、木戸が閉る---」
「つまらへん。おもろい話、聴かせてあげよおもうて、ごっつうせいて帰ってきたんよ---」
「明日、里貴といっしょに聞く」
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コメント
「待ってましたッ、おんな木村忠吾ッ!」
って声をかけたくなる今日の奈々です。
自分でも心得ていて、「怪(け)ったいな乙女(こ)やの」というほど、ピントを少しずらしている。
それだけに、平蔵さんもかわゆくって仕方がない、けど、世間に対しての義理もあるからピントを合わすようにしつけてます。そのしつけぶりもこれからの見所の一つですね。
平蔵のものにむかって、「ええ子、見てみぃ、奈々よ。あいさつ、しい。あ、ぴくぴく、あいさつしとぅる。可愛いィ---」
自分のもので握手しようなんて、まさに、小妖女。これからどんな喜劇がうまれるのか、たのしみ。じつをいうと、わたしの友人に一人、奈々的がいるんです。
投稿: kayo | 2011.08.13 05:47
>kayo さん
「おんな木村忠吾」とは!
たしかに、平蔵の目線からすると、いささか羽目をはずしているところもありましょうが、いまどきの若いむすめとおなじで、芯はしっかりしていて、ただ、人とは変わった言葉使いや衣装で自己表現をしているだけかもしれません。
銭湯はまだ混浴でしたしね。
男女とも、性器は別に珍しくはなかったでしょう。
投稿: ちゅうすけ | 2011.08.13 07:41