蓮華院の月輪尼(がちりんに)(3)
「行って、添うてやるがよい」
蓮華院の襖をしめきった施療の部屋で、月輪尼(がちりんに 23歳)にいわれた平蔵(へいぞう 38歳)は、看護婦のお専(せん 24歳)に、
「大事ないゆえ、しばし、座をはずしていてくれ」
不審顔のお専にうなずきかえし、消えると襖をしめ、着物を脱いだ。
その気配を、里貴(りき 39歳)が弱々しい笑みでうけとめた。
下帯もとり、里貴の横に添った。
掌で秘部を蓋うと、うめいた里貴が腰をあげてきた。
「無理をしなくていい」
「でも、うれしい、のです」
口を寄せてきた。
「じっとしておれ」
口は薬湯の匂いが強くかった。
里貴が、平蔵の硬くなっていないものをつまんだ。
「ごめんなさい」
「いいのだ。よくなれば、いくらでもできる。われたちは、まだ若いのだ」
かすかに笑み、うなずいた。
平蔵の耳には、
(そなたには、その女性の夜叉の形相が見えないようじゃ)
月輪尼の声が、社頭の大鈴のそれのように響いた。
ふっと、15年前の芦ノ湯村の病室が浮かんだ。
【参照】2008年7月27日[明和4年(1767)の銕三郎] (11) (12)
阿記(あき 25歳=当時)の茂みは濃かったが、里貴の少ない絹糸になじむと、こっちのほうが無防備ですむし、快くなっていた。
多紀安長元簡(もとやす 29歳)から好女(こうじょ)説を聞いたせいもたぶんにあろう。
【参照】2010年12月25日[医師・多紀(たき)元簡(もとやす)] (8)
里貴の寝息を耳にした。
そっと抜け、着衣をととのえ、隣部屋で待っていたお専に、
「すまなかった。眠ったようだ。多紀(安長元簡 もとやす 29歳)医には、このこと、告げるでない」
片口から小椀に注ぎ、
「ま、すこし、呑(や)るがいい」
お専は呑(い)ける口らしく、喉を鳴らした。
「呑けるじゃないか」
注ぐと、初めて笑みをみせ、
「多紀先生には、内緒にお願いします」
「どこで、覚えたかの?」
「先夫が大酒ぐらいだったもので、つい---」
「それが離縁の因(もと)かな?」
「いいえ。ほかのおんなを孕ませたのです」
「そこもと、子は---?」
「できませんでした」
「余計なことを訊いたようだ」
「そんなとはありません。でも、こちらを拝見していますと、うらやましくて---」
「なにが---?」
「患い人(びと)を安心おさせになることに一所懸命ですもの」
3杯目の多めに注がれた椀を置き、
「患い人にお寝(やす)み前の用をすませていただいてきます」
両手を濡れ手拭いで清めながら、
「お眠りが深くなるお薬をさしあげておきました」
「とけい草か、なにか---?」
【参照】2010年2月26日[とけい草]
「ご存じなのですか。南蛮渡りのちゃぼとけ草のほうです」
「さすがに、躋寿館(せいじゅかん)---」
大きな笑みで4杯目を受けたので、つい、うっかり、
「お専どのの笑顔は童女のごとくで、齢が10歳は若くなる」
ほんとうのことだったが、お世辞にとられたようだ。
「14歳だと、下はまだ生えそろいませんが、17歳なら立派な眺めですよ」
(あ、酔っているな)
平蔵が気づいたときは遅かった。
酔いが羞恥をおさえきれなくなっていた。
立って、裾をまくり股を見せた。
「こちらのの女将さんのは無いにひとしいですが、お専さんのは17歳から黒々です」
ちゃんと立っていられなく、ゆらゆらゆれながら開帳していたが、ひらいたままで、平蔵の膝にくずれこんだ。
そのとき、奈々(なな 16歳)が帰ってき、棒立ちで醜態場を凝視した。
(夜叉とは、このことだ)
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コメント
里貴さん、もう何日間臥せっているのでしょう。平蔵が素裸になり添い寝してはげます---すてきなシーンです。和風のお布団だからてきることですね。日本的な愛のかたち。
投稿: tomo | 2011.08.12 05:30
「お専どのの笑顔は童女のごとくで、齢が10歳は若くなる」
平蔵の添い寝に刺激されていたお専は、平蔵の言葉を誘いと受け止め、酒の勢いもあり、せまりました。
女性なら、体がほてってどうしようもないときってありますものね。でも、勇気があります。長くいっしょにいて、なじんでいたのでしょう。
投稿: kayo | 2011.08.12 05:38
>tomo さん
里貴と平蔵の出会いが遅すぎたかもしれません。もし、久栄との婚儀の前に出会っていたら、あるいは、長谷川の家を棄てていたかもしれません。
投稿: ちゅうすけ | 2011.08.12 06:43
>kayo さん
男は、女性に対してやさしくあるべきです。
しかし、かける言葉には注意を。うっかり、誤解を与えかねないような言葉をかけると、のっぴきならない場面を招きかねません。
さいわい、このときは、奈々が帰ってきてくれましたが。
投稿: ちゅうすけ | 2011.08.12 06:51
>tomo さん
それによって病状がどう変化するかは両者とも考えなかったでしょう。肌と肌が接触していること、性器に触れ合っていることで、一体感が高まったのではないでしようか。
投稿: ちゅうすけ | 2011.08.12 15:18
>kayo さん
男女の仲って、どちらかが一歩踏み出ないと進展しないものでしょう? この場合は、言葉がきっかけになっていますが、肌の接触が先行することもありましょうね。
投稿: ちゅうすけ | 2011.08.12 15:23