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2011.12.26

別刷り『剛、もっと剛(つよ)く』(4)

j招き状には、
「久しぶりなので、お内儀もご同伴で---」
と書き添えておいた。

音羽(おとわ)〕の元締・重右衛門夫婦(じゅうえもん 58歳とお多美 たみ 42歳)、〔箱根屋〕の権七夫婦(ごんしち 53歳とお須賀(すが 48歳)のほかに、多岐(たき)安長元簡医師夫妻(もとやす 31歳とお奈保 なほ 22歳)にも声をかけた。

平蔵(へいぞう 40歳)が五ッ半(午後5時)に茶寮〔季四〕に着いてみると、多岐夫妻がすでに来てい、女将の奈々と話しあっていた。
脇には季節のお仕着せである紺碧(こんぺき)の無双を着た女中頭・お(なつ 20歳)が神妙な顔してかしこまっていた。

参照】2011年8月15日[蓮華院の月輪尼(がちりんに)] (

ついでながら、奈々の無双は紺鼠(こんねず)で色白の肌を引きたててい.る。

音羽〕の元締や〔箱根屋〕さんがお運びになる前に『剛 (ごう)、もっと剛(つよ)』に載っていたおさんの生薬(きぐすり)をお願いしておりましたの」
「なんの薬かな?」
「殿方には無縁のお薬---」

(やっ)さんは、笑いで奈々を制しながら、
「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)を処方しておくから、明日でも躋寿館(せいじゅかん)にとりにいらっしゃい。館の場所はあとで奈々女将に教わりなされ」

奈々が耳打ちした。
奈保はん、9月にはお目出度やって---」
そういえば隠しきれないほどの腹であったが、聴き流した。
本人から報じられるまでは話題にすることではない。

そうこうしているうちに〔音羽〕と{箱根屋〕の夫婦がそろった。

音羽〕の重右衛門夫婦が、嫡男・祇右衛門(ぎえもん 23歳)を同道しており、
「大事な話とおもい、粗漏がないよう、愚息を見習いがてら---」
恐縮の体(てい)で釈明したが、ありようは、多岐元簡夫妻への顔つなぎであった。


平蔵が『((ごう)、もっと剛(つよ)』のひろめ方の一つとして廻り貸し本屋の使い方を説いた。
この種の閨(ねや)ものは、書き物にしろ絵にしろ、明るいところで話題にはしにくく、人から人への口づたえでひろがっていくのがもっともたしかなお披露目であろう。

(尻馬にのってつけくわえると、このブログの史料が中心の日はともかく、ヰタ・セクスアリスにおよんでいる日の分は、友人にこっそり伝えていただくとありがたい)

「前回の集まりのときにも強調したように、狙いは別刷り『もっと剛(つよ)』ではなく、そこですすめられている性力剤と女性(にょしょう)の血の道の生薬のつづいての売りである」

これも、気弱な者は薬種店で口にだしにくいから、つい、ひかえがちになりやすい。
廻り貸本屋がこっそりとどけてくれるとなると、頼むほうも口が軽くなろう。

たちまち賛したのが、〔音羽〕のお多美であった。
「きのう、紋次(もんじ 42歳)どんとこから見本がとどいたよって、読ましてもらいましてん。多岐先生にまっさきに八味地黄丸(はちみじおうがん)をお願いしょ、おもうてます」
「息子の前で恥をかかすな」
さすがの重右衛門もあわててとめた。

祇右衛門は笑って、
「おやじさん。見栄をはることはない。役目は終わっているのだから、あとはお袋のいうとおりに生きたらいい」
「つれてきたのは裏目であった」
重右衛門がおどけたので、座の空気がほぐれた。

「うちも多岐先生のお薬、いただきます」
須賀が乗りだし、ひと声あげた。

平蔵がなだめ、それぞれのお披露目扱いの元締衆に、500冊の半分は廻り貸し本屋分としてのけておくように。
1冊の(剛、もっと剛(つよ)』の売価は50文(2000円)、
卸値は30文(1200円)、
廻り貸本屋への渡し価は36文(1440円)。
いずれも前金全納。

薬の荒利は、5割5分(55パーセント)、ただし送賃は荒利から差し引き。
廻り貸本屋への渡しはおなじく3割6分(36パーセント)
いずれも前金全納。

平蔵は、これらの数字を今朝のうちに3部写していた。
奈々は内心、小にくらしくおもった。
(昨宵、うちとええことしてんのに、頭では勘定してはったんやろか。上と下を別々に働かせるのん、おんなにはでけへん)


参照】2011年12月6日~[化粧(けわい)読みうり〕の別刷り ] () () (


 

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コメント

一つのプロジェクトを推進していく中心人物とそれに手を貸す人たちが、ユーモアを交えながらすすめられていて、おもしろい。
これ、火盗改としての準備ですね。

投稿: 左兵衛佐 | 2011.12.26 06:37

>左兵衛佐 さん
平蔵の人脈がだんだとひろがっていきます。ことしの最高のキャラは、蔵元の〔東金(とうがね)屋清兵衛です。
これから4年後、石川島の人足寄場を設営することになるのですが、収容した無宿人たちに手職をつけさせます。そして彼らが稼いだ給金を〔東金屋〕に預けて金利をつけさせ、島を出ていくときに元利とも渡してやる制度もつくることができました。

投稿: ちゅうすけ | 2011.12.27 13:15

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