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2011.12.28

別刷り『剛、もっと剛(つよ)く』(6)

、もっと剛(つよ)』500冊と見本の2冊が、〔箱根屋〕の駕籠でととけられた3日目であった。

平蔵(へいぞう 40歳)の下城を待ちかねていたように、北・南品川の一帯をおさえている香具師(やし)の元締〔馬場(ばんば)〕の与左次(よさじ 60歳)の後継ぎ・五左次(いさじ 25歳)が馬場先門外で若いのと待ちかまえていた。
もちろん、家士・松造(よしぞう 34歳)にはそのことを通じていた。

「やあ、お乃舞(のぶ 26歳)どのには大事ないかな?」
「はい。お蔭さまで。今日はお乃舞のことより、長谷川さまがもっとおしりになりたがっていらっしゃるはずのご報告のためにお時間をいただきやした」

京都以来10年ほども化粧師(けわいし)・お(かつ 41歳=当時)の助手で性愛の相手もつとめていたお乃舞が、ふとしたことから五左次に惚れてしまった。
男への初恋であった。

参照】2011年5月26日~[お乃舞(のぶ)の変身] () () () 

男しらずで、おとの性愛に満足していたお乃舞五左次を男として意識したのは3年前---〔若い 獅子たちの集い〕と名づけられた元締二世を中心とする会合に出席したときであった。

参照】2011年5月26日~[若い獅子たちの興奮] () () (

きっかけは、23歳だったお乃舞が、五左次の脇に身をのりだし、〔化粧(けわい)読みうり〕が京で彫って刷られているから、上方からくだってくるものが上手(じょうず)ものみたいな気配をにおわせている、これからは江戸で彫り刷るべきであると、自分が京生まれにもかかわらず東国の肩をもった。

その気風(きっぷ)のよさがまず五左次のこころに火をつけたがそのことはおいて---。


数奇屋橋門外の公事(くじ)茶屋の奥の小座敷に落ち着いた。
平蔵がもっとも聴きたがっている話と五左次がいったのは、予想どおり、『、もっと剛(つよ)』の評判とその反響であった。

五左次の報告をかいつまくんで書くと---、

これも〔若い 獅子たちの集い〕に名を連ねている〔音羽(おとわ)〕の祇右衛門(ぎえもん 22歳)から町飛脚がとどいた。

すぐにシマ内の廻り貸本屋を集め、、『、もっと剛(つよ)』を常得意にすすめさせ、もったいをつけて売りわたし、薬の注文を前金でとれ。
さらには常得意に借り読みですまさせないで、『、もっと剛(つよ)』を新本を選りこむようにはっぱをかけた。
ところがおどろいたことに、絵草子が着いて2日のうちに、8人の貸本屋が96冊売り、
男用の性力剤の
八味地黄丸(はちみじおうがん)   14口
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)    18口
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)    8口
十全大補湯(じゅうぜんだいほとう) 11口

おんなの性感をあげる
温清飲(おんせいいん)         9口
芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)12口
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)  21口

「これがすべて、留守番をしている内儀たちがご亭主には相談なしにだした注文なんです」
「漢方の効きめはゆっくりだから、30日後には倍の注文になるな」
「はい。貸本屋たちにもそういっておきました。それで、配達をまっていられませんので、きょう、こうしてじかに外神田・佐久間町の躋寿館(せいじゅかん)の若先生のところに薬を求めに参りました」

「〔馬場〕の。浅草の〔木賊(とくさ)の今助(いますけ 38歳)元締にいまの話をつたえ、〔若い 獅子たちの集い〕を集めて報告しあうがいい。それから、西駿河や宇都宮の若い 獅子たちにも、五左次どんのところの実績をすぐに伝えてもらいたい。そうそう、きょうの話を〔耳より〕の紋次(もんじ 42歳)どんにも聞かせてやれ。『(ごう)、もっと剛(つよ)』はあれが作ったようなものだから、きっと大喜びするだろう。五左次どん、そがしくなるぞ」

馬場〕の五左次の思慮の深さに、平蔵は前から目をつけていた。

参照】2011年4月20日~[古川薬師堂 ] () (

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222[化粧(けわい)読みうり]」カテゴリの記事

コメント

きょうの四つの漢方、他人事ではない。とにかく、薬の名前だけはわかったのだから、薬局をあたってみます。感謝感謝。

投稿: 三次郎 | 2011.12.28 05:32

相生町のお藍(らん)です。
しかし、ちゅうすけ師匠は物知りですねえ。男のための「もっと剛く」の漢法薬があることはぼんやりと聞いてましたよ。でも女のそれを高める薬とはね、トホホホです。男のほうが剛であれば女はそれに応じるとおもってましたが。そういうものですかねえ。トホホホ。

投稿: 相生町のお藍 | 2011.12.28 05:48

>三次郎 さん
たいていの漢方は、じっくり効いてきますから、せっかちに効き目をもとめないようにしてください。じっくりとこころをおちつかせて。こころがけ次第です。

投稿: ちゅうすけ | 2011.12.28 07:49

>相生町のお藍さん
おほめいただきありがとうございますが、耳学問でして、実地はあまり。
耳学問といえば、ある製薬会社の社長をしていた人から、奇特な薬を聞いたことがあります。お藍さんには必要ないとおもいますが、とりあえず---おんなの人もある年齢あたりから少くなる水っけを補う薬を発明したとか。通販の薬品だと教えられ、それで、このブログでも「もっと剛く」を通販に近い廻り貸本屋にデリバリーさせる着想をえました。

投稿: ちゅうすけ | 2011.12.28 12:23

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