〔轆轤首(ろくろくび)〕の藤七
『鬼平犯科帳』文庫巻14の[さむらい松五郎]は、『オール讀物』1976年6月号に発表された篇である。
わざわざ掲載号を記したのは、この前の号の[五月雨]で池波さんは、雰囲気を盛り上げるキャラの密偵・伊三次を刺殺で失った。
これからは木村忠吾の特異なキャラクターをしっかり役立てなければなるまい、とおもったのであろう、忠吾に2役をふった。
〔網掛(あみかけ)〕の松五郎のそっくりさんに仕立てて、コメディ・タッチの篇に。
(参照: 密偵・伊三次の項)
(参照: 〔網掛〕の松五郎の項)
念が入っているのは、忠吾を総髪にまでつくったこと。いくらなんでも、火盗改メの同心が総髪はおかしい。
もちろん、〔須坂(すさか)〕の峰蔵は忠吾の髪形にまでは気がまわらない。そこから、とんちんかんな会話が生まれる。
(参照: 〔須坂)の峰蔵の項)
錠前あけが得意な〔須坂〕の峰蔵は、高崎の口合人〔赤尾(あかお)〕の清兵衛の口ききで、いまは〔轆轤首〕の藤七一味を助(す)けることになっている。
〔轆轤首)という「通り名(呼び名)」からして、マンガチックな命名で、いつもの池波さんらしくなく、わざとふみはずしている。上州から常陸、会津から仙台あたりまで荒らしまわっている非道な盗賊である。
(参照: 〔赤尾〕の清兵衛の項)
年齢・容姿:残忍な笑い顔のほかは、どちらも記述がない。もちろん、首の長さは並とおもえる。
生国:テリトリーと口合人・清兵衛との間柄からいって、高崎あたりの出とおもえるが、不明としておく。
探索の発端:目黒不動堂の門前の目黒飴の〔桐屋〕で、、〔須坂(すさか)〕の峰蔵が忠吾を〔さむらい〕松五郎と人違いして声をかけた。
7年前に峰蔵が〔湯屋谷(ゆやだに)〕の富右衛門の盗めを助(す)けたときに、〔湯屋谷〕の右腕といわれた松五郎をみかけていたのだ。
(参照: 〔湯屋谷〕の富右衛門の項)
さっそくに〔轆轤首〕一味が狙っている麹町7丁目の菓子舗〔菊屋〕へ見張りがついた。
結末:目黒の権之助坂の中ほどにある上覚寺の前の茶店〔日吉屋〕が〔轆轤首〕一味の盗人宿だか、火盗改メの打ち込みの時刻が迫ってきている。
つぶやき:上覚寺は尾張屋板の切絵図の誤刻。いつもは近江屋板をつかう池波さんだが、近江屋板の目黒地区の記載があまりにお粗末なので、このときにかぎって尾張屋板を参照し、浄覚寺を上覚寺としてしまった。
この筆のすべりを見つけたのは、学習院生涯学習センター〔鬼平〕クラスの新兵衛さんであることを付記しておく。
〔轆轤首〕などというふざけた「通り名(呼び名)」を、池波さんは鳥山石燕『画図百鬼夜行』の「飛頭蛮(ろくろくび)」から採ったのだろうが、『画図』のそれは女性である。
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