〔蛸坊主(たこぼうず)〕の五郎
『鬼平犯科帳』文庫巻16の冒頭に置かれている[影法師]で、探索の端緒をつかんだ密偵〔蛸坊主(たこぼうず)〕の五郎。元は本格派の盗賊であった。
血をみる畜生ばたらきがあまりにもひろがっているのに嫌気がさしていたとき、かつて何度も手伝った〔大滝〕の五郎蔵に出会った。
(参照: 〔大滝〕の五郎蔵の項)
「流ればたらきをしていても、根はしっかりしている」からと見きわめた五郎蔵が、鬼平に引きあわせると、五郎はたちまち鬼平の人柄に魅せられ、密偵になることを承諾したのである。
年齢・容姿:37歳。両眼が丸く大きく、口が突き出ていて蛸に似ている。
生国:3つのときに捨て子されていたのを、伊豆(いず)国加茂郡(かもこうり)八幡野(やわたの)村(現・静岡県伊東市八幡野)の寺僧に拾われ、15の年まで小坊主をしていた。
寺を飛び出てから悪の道へ入った。
探索の発端:密偵になってからの五郎は、むかしの育ちを生かして托鉢坊主姿で探索している。
たまたま、神田橋門外の茶店で一服していたとき、〔井草(いぐさ)〕の為吉(40がらみ?)を見かけた。首領〔湯屋谷〕の富右衛門が5年前に病死して以来、流れづとめをしいている男である。尾行して、西神田・蝋燭町の旅籠〔井筒屋〕へ宿泊していることをつきとめた。
(参照: 〔井草〕の為吉の項)
そこには、3人ほどの小人数で小さな盗めが専門の〔塩井戸〕の捨八もい、どうやら、麹町8丁目の菓子舗〔池田屋〕に目をつけているらしい。
(参照: 〔塩井戸〕の捨八の項)
結末:旅籠〔井筒屋〕へ泊り込みで見張りについた同心・木村忠吾を、〔さむらい〕松五郎こと〔網掛(あみかけ)〕の松五郎と見間違えている〔塩井戸〕の捨八が宿の階段でばつたり鉢合わせし、捨八は逃げにかかったが、酒井同心に捕まった。
(参照: 〔網掛〕の松五郎の項)
そのあと、為吉も捕縛され、入牢。そこには〔さむらい〕松五郎も入れられていた。捨八は松五郎の「影法師」に右往左往したことになる。
松五郎にそっくりの木村忠吾と盗っ人たちとのやりとりの仔細は、文庫巻14の巻末の[さむらい松五郎]に述べられている。
つぶやき:木村忠吾が〔網掛〕の松五郎に似ているために起きたもう一つの事件は、
(参照: 〔須坂〕の峰蔵の項)
〔塩井戸〕の捨八と〔井草〕の為吉との入りくんだ関係は、まもなく〔井草〕の為吉の項に記す。
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