女賊お新
『鬼平犯科帳』文庫巻14に収められている[尻毛の長右衛門]と、タイトルにもなっている盗人一味の首領の情婦でもあり、引きこみもつとめていた女賊。
(参考: 〔尻毛〕の長右衛門の項)
耳の穴からまで毛がはみだしているような毛むくじゃらな〔尻毛(しりげ)〕のお頭の情婦になったのは、やはり〔尻毛〕一味の配下だった亭主の市之助が若死にしたからである。幼いおすみを抱えた女賊として生きていくためには、むしろ、それが最善の道だったかもしれない。
〔尻毛〕の長右衛門は、本格派の〔蓑火〕の喜之助の下で修行していたので、筋の通った盗めをした。
(参照: 〔蓑火〕の喜之助の項)
(参照: 引き込み女おすみの項)
年齢・容姿:生きていれば40なかば? 狆(ちん)ころが髪を結(ゆ)っているような顔。その髪は縮れ毛で、鼻も低い。
生国:美濃(みの)国のどこか(現・岐阜県)。
というのは、〔尻毛〕の長右衛門は、流れづとめの者は使わないほど慎重である。配下を選ぶにも、地縁を優先させたろう。もっとも、お新にも亡夫・市之助にも「通り名(呼び名)」が付されていないから生国を特定できないが。
情婦となった経緯:〔尻毛〕の長右衛門(50すぎ)が、お新のむすめのおすみ(19歳)をのち添えにしたいと、〔布目(ぬのめ)〕の半太郎に告白したセリフ。
(参照: 〔布目〕の半太郎の項)
「おすみの母親の、お新というのも、わしの手元で引き込みをしていたが、亭主の市之助も、ずっと、わしのところにいた男で---それが早死にしたものだから、お新はおすみを育てながら、引き込みを---そのうち、わしも女房子を死なせてしまっていたし、なんとなく、その、お新に手をつけてしまってなあ。
それが4,5年はつづいたろうかね。そのうちに、お新が病死してしまい---」
つまり、長右衛門はお新に引き込みをさせたりしながら、4,5年、躰をあわせていたことになるが---。
女賊の引き込みは、住み込みの場合が多いから、そのあいだは、抱けない。お新のほうがなんとか口実をつくって寸時抜けだして抱かれていたのだろう。
結末:〔尻毛〕の長右衛門は、おすみを抱くことなく、捕縛・処刑された。
つぶやき:おすみが自分から処女をあたえた〔布目(ぬのめ)〕の半太郎の感想では、(おすみの躰の中には泥鰌が100匹棲んでいやがる)そうだ。
その躰は母親のお新ゆずりのものだろうから、そのことは〔尻毛〕の長右衛門も妄想していたろう。いや、それだからおすみをのち添えにしたがったのだろう。
女にこだわって身を滅ぼしたのは、師匠の〔蓑火〕の喜之助ゆずりというより、男の性(さが)というしか仕方がない。
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コメント
盗賊のお頭と引き込み女
「山崎屋お勝」のところで霧の七郎とお勝(おしの)の関係が言われています。 過去に夜兎の角右衛門の引き込みをやっていたお勝に関宿の利八ができてしまったので利八は制裁を受けています。 ビデオでは指を詰められている。 お新と尻毛の長右衛門の間の関係も同じでしょう。 引き込みはとても大事な仕事なので、体の関係をつけてから送り込むのでしょうが、 30以上も歳に差のある長右衛門がお新の娘のおすみをのち添えにしたい気持と布目の半太郎が逃げる気持が判ります。
投稿: edoaruki | 2005.10.08 20:17
えっ、そうでしたか。〔霧(なご)〕七郎は、お勝(おしの)の躰をものにしていましたか。
原作では、初代の〔夜兎〕の角右衛門が19歳で孤児になったおしのを女にしたあと、引き込み女に仕込んだとあるが、〔霧〕の七郎との間の躰の関係は書かれていません。
テレビの脚本家が勘ぐったのでは?
いや、嗅覚の鋭いedoarukiさんが睨んだのだから、じつはテレビの脚本どおりだったのかも。
投稿: ちゅうすけ | 2005.10.09 07:24