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2006.01.10

情婦・お常

『鬼平犯科帳』文庫巻1の第1話[唖の十蔵]に登場する賊の頭は〔野槌(のづち)〕の弥平だが、その配下の小間物屋を隠れ蓑にしている助次郎とできていた愛宕山下の水茶屋の茶汲女だったお常は、助次郎の死後、弥平に囲われ、弥平の仮の姿---江戸郊外・王子稲荷の裏参道の料理屋〔乳熊屋〕清兵衛、その女房という形で同棲していた。
(参照: 〔野槌〕の弥平の項)
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愛宕山下(部分)。堀端にお常がいた水茶屋が立ち並んでいる
(『江戸名所図会』より 塗り絵師:西尾 忠久)
(参照: 〔下総無宿〕の助次郎の項)
助次郎が身重の妻のおふじを捨てて、お常と暮らすつもりだったことを耳にした弥平が興味をもって水茶屋へ嘗めに行き、いっぺんに気をうばわれたのである。

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年齢・容姿:24,5歳か。渋皮のむけた伝法肌。
生国:武蔵(むさし)国江戸の在のどこか。

探索の発端:いまは密偵になっている、もと盗賊の岩五郎が、〔野槌〕弥平一味にいたとき、助次郎の父親の伊助とともに顔見知りだった。
その助次郎が東両国の小間物問屋からでてくるところを尾行し、住まいを確かめたことから、〔野槌〕一味の〔小房〕の粂八が捕縛され、拷問で王子の盗人宿を吐いた。
(参照: 〔小房〕の粂八の項)

結末:〔小房〕の粂八が捕らえられたと、〔小川や〕梅吉から伝えられた弥平は、とりあえず故郷の三河へ隠れるためにお常と旅支度をしているところを、火盗改メに踏み込まれて捕縛。弥平は磔刑。お常についての記述はない。
(参照: 〔小川や〕梅吉の項)

つぶやき:〔野槌〕の弥平ほどの大物なら、女に不自由はしていまいから、お常もいっときの慰みとして同棲することはあっても、女房までには---とおもうが、池波さんは「女房お常」としている。
長くつづけるつもりのなかった連載の第1回目だから、話を完結させてしまうつもりで、つい、女房扱いにしてしまったのかもしれない。なに、いまの若いカップルの結婚セレモニーを想像するから「女房」という言葉にこだわるのである。
当時の盗賊とすれば、同棲している女性を「女房同然」といったのであろう。

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