〔猿塚(さるづか)〕のお千代
女性経営者ばかりの団体で、近く、『鬼平犯科帳』についてスピーチすることになった。
米国やフランスに女性の大統領が誕生しかねない趨勢だから、女性大臣や女性社長は珍しくもなんともない時代といえる。
そう考えて、職能集団ともいえる盗賊グループにおける女性の首領をチェックしてみたら、[5-3 女賊]の〔猿塚(さるづか)〕のお千代と、[23 炎の色〕の〔荒神(こうじん)〕のお夏しか見当たらない。
2人とも2代目。独力で組織をつくりあげたわけではない。しかも、 〔猿塚〕のお千代は、セックスを道具にして組織を維持している。〔荒神〕のお夏のほうはレスビアン。
つまり、こんどの女性経営者の集まりに、女頭領の話題は不向きと断じざるをえない。
とはいえ、〔猿塚〕のお千代には、魅(ひ)かれるあやしさがある。40歳なのに、小さな白い手は生まれつきとしても、28,9歳の若い女にしか見えない躰つき---のためには、日常、どんな鍛え方をしているのだろう。
かすれ気味のハスキーな声は、ヘビー・スモーキングのせいかな。
ハスキー声がヒントになったのか、吉右衛門丈=鬼平のビデオでは、沢たまきさんが演じて適役と膝をうったが、湯舟の中で自裁しているシーンでは、さすがにデュート(紗)がかかっていた。沢さんの名誉のためにも当然の撮影技法。
配下の浪人たち、年に一度のあてがい扶持---ならぬセックスにつられて、一味を抜けないでいるというのも、なんだかうらさびしい。
そうそう、〔猿塚〕のお千代は、近江(おうみ)国犬上郡(いぬがみこうり)高宮(現・滋賀県彦根市高宮)の出身で、15年前から父親・徳右衛門とともに、牛天神下(赤○)に京菓子舗〔井筒屋〕を構えている。
近江屋板の切絵図 上水道、牛天神と安藤坂あたり
屋号の〔井筒屋〕は、上段の店から借用
物語は寛政元年(1789)の初夏の事件だから、15年前といえば、安永3年(1774)前後で、お千代は25歳---まるで嫁ぎたての若嫁に見えたろう。近所の人は、30歳も年の違う父親・徳右衛門を夫と思ったというから、徳右衛門もそこそこに若く見えたのかも。
牛天神といえば、現在は社号を北野神社とあらためているが、神職はたしか春日姓の女性で、誤解をおそれずにいうと、お千代のように若々しく見える魅力的な神主さんだ。
牛天神の俗称は、絵の左端、寝牛の形の大石による。現在は拝殿左に鎮座(『江戸名所図会』 塗り絵師:ちゅうすけ)
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