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2007.03.10

「もう、男はこりごり---」とおまさ

[4-4 血闘]は、密偵志望のおまさが、少女時代に憧れた長谷川平蔵と再会する物語。

長谷川平蔵が火盗改メの本役が発令された天明8年10月2日から、さほど日を置かずして、おまさが役宅へ現れて密偵を懇請する。

このおまさによって〔乙畑(おつばた)〕の源八一味が〔火盗改メ〕に捕らえられたことはもちろんだが、その後、平蔵は、おまさを密偵にするつもりはなかった。
しばらくは、自分のところへ引きとり、そのうちに適当な相手を、
「見つけてやろう」
と、平蔵はおまさにいったが、
「もう、男はこりごりでございます」
おまさは笑って、うけつけようともしない。 p1138 新装p144

ミク友(SNS組織---mixiの仲間)で文芸評論家のイケガミさんの日記「若い女性の無邪気な感想」を少々引用させていただく。
イケガミさんが、いまは女性の部下が多い職場の上司をしているかつてのクラスメートと酒席をともにしたときの会話だ。

上司さん「---けっこう悩みをきかされるんだよ。まあ平たくいうと、愛されていると思ってセックスしたのに、愛されていなかった、バカヤロウという話ね」
つづいて、「セクハラじゃないかと思って一瞬迷ったけれど、こっちも酔っていたし、いったけわけだ。“勃起したペニスには良心がない。とくに若い男のそれには”。だから気をつけなさい、と」
と、悩みを打ち明けた若い女性が「“刺激的な格言ですね”と」
上司さん「そればかりじゃない。もっと驚いたのは、そのあとでね。“いろんなことをいっぺんに思い出しちゃいますね”と」

おまさが平蔵に「もう、男はこりごりでございます」といったとき、どんなことを思い出したろう、と思った。
7歳になる娘は、亡父の里へ預けており、その子の父親は、5年前に死んでいる。
〔狐火(きつねび)〕一味にいたとき、一味を放逐されることになった掟やぶりをして、首領の息子・又太郎を男にしてやったことか。
18歳で〔乙畑〕一味にいたときに、〔夜鴉(よがらす)〕の仙次郎にレイプされたことか。

池波さんがあとになって後悔したのは、[血闘]で浪人たちにおまさを輪姦させたことだろうと憶測している。

おまさはその後、[9-2 鯉肝(こいぎも)のお里]で密偵仲間の〔大滝(おおたき)〕の五郎蔵とむすばれる。
そして、未完[24 誘拐]で、レズの〔荒神(こうじん)〕のお夏に誘惑されるらしい。

いや、よくできた短篇を読むようなイケガミさんの日記の---“いろんなことをいっぺんに思い出しちゃいますね”に触発された。男性も女性も、どういうときに「いろんな、どんなことを、いっぺんに思い出しちゃう」のか。

それこそ、人生の1断片々々々が、ページをぱらぱらと落とすようによみがえるから、人生は悲しくもあり、嬉しくもあるか。
 

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