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2009.05.15

銕三郎、初見仲間の数(4)

銕三郎(てつさぶろう 23歳=初見時)の明和5年12月5日のお目見(めみえ)の仲間は、どうやら、数十人---ひょっとすると100人近いのかもしれない。
異例かどうかは、わからない。
徳川実紀』で見るかぎり、1日に50人以上というのは、異例と言えそうである。

それはともかく、いつもいつも、史実に忠実に---というのも、肩が凝る。
たまには、雑談もいいではないか。

初見者のリストをつくっていて---つまり、『寛政譜』を総ざらえしていて---、
短篇時代小説にでもなりそう、というか、人生の機微もしくは武家であることの悲劇---に触れたような記述が目に入った。

初見のときは、平岡権之助良利(よしとし 18歳 200俵)。
養父・彦兵衛良寛(よしひろ 56歳)は、甲府近在の幕府直轄地の代官を勤勉につとめていた。
代々甲州の代官職についていたのは、出身が武田の蔵奉行だったからであろう。

そんなわけで、屋敷は湯島中坂下に拝領していたが彦兵衛自身は、甲府の官舎に赴任していた。
いや、『寛政譜』によると、権之助良利も、初見をすますと、ただちに甲府へおもむき、養父の職務の見習いをしたとある。

養子だから、妻は養家側が準備している。
彦兵衛の長女である。
名は仮りに、富江(ふえ)とでもしておこうか。
年齢は、じつは、22歳の若後家---というのは、婿養子・栄之助が、1年前に病死していたからである。
夫婦生活は3年であったが、その半分は、栄之助の看護であった。
もっとも、病床の栄之助の求めに忠実に応じたので、その死期を早めたともいえる。

富江の躰は、熟れきっていた。
新しい男を待ちに待っていた。
そう推察したのは、権之助が、半年もしないで腎虚のようになり、養子解消を申しでたからである。
富江とすれば、技巧もしらないで、ただ、はげしく突いてくるだけの若い夫にあき足らなくなっていた。
その突きもできなくなっては、同衾する楽しみがない。

権之助は、実家・松平田宮恒隆(つねたか 40歳 500石 小十人頭)の許(もと)へ戻り、養生にはげんだ---というより、富江から離れたことで、腎虚はたちまちに回復したともいえた。
ただし、養家をしくじったと見られた権之助に、養子の口はほとんどかからなかった。

実母はすでに亡く、継母は、権之助から見ると5歳違いの姉のようであったが2女をもうけており、厄介者あつかいがきつかった。
恒隆が宿直(とのい)のある夜、権之助を呼び、
「府中(甲府)の富江さまから内密にお聞きしたことですが、どのは、床(とこ)でのなにが、まっすぐすぎるとか。おなごは、寄せては引く波のように遊ばせてほしいのですよ」
にこりともせず言いきり、大年増の後家の女中に言いふくめてあるゆえ、今夜、教わるがよいとけしかけた。

たしかに、富江とのことはつよく反省させられた。
それが継母の計りごとであったことは、すぐにきた婿養子の相手が、先夫が病死した28歳の後家であったことでしれた。
「手習いの良師とおぼしめせ」

酒井宇右衛門正稙(まさたね 51歳=安永元年 新番 250俵)の長女は、たしかに良師であった。
先婿とのあいだに3女をもうけており、寝間でも大胆にふるまったが、富江のように毎晩求めるのではなく、むしろ、頻度よりも濃密を好んだ。
権之助も、ゆっくりと寄せては、突然に返した。

どこが武家の悲劇かって?
次男以下は、選りごのみができないこと、たとえ2度ともが使用済みであろうとも。

権之助のことはこれくらいにして甲府の平岡家富江である。
躰が承知しなかった。
江戸で男をくわえてきた。
同じ武田系ではあるが、大身・小田切家(2930石)といえば、兄・直年(なおとし)がのちに町奉行にもなったほどだが、当人・主人(もんど)は、あぞび好きで、門地にこだわらなかった。
だから、27歳になるまで、4年間、同棲のようにして平岡家で暮らし、富江が身ごもったのでやっと初見をする気になった。

そうそう、平岡家長谷川家のかかわりだが、2人目の養子・良利が初見で銕三郎と同席であったということのほかに、富江の叔母---といっても祖父の養女---が、なんと、平蔵宣雄が養女に迎えた与詩(よし)の父・朝倉仁左衛門景増(かげます) 享年)の2番目の内室であった。

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参照】2007年12月24日~[与詩(よし)を迎えに] () () (16) (17) (18) (19) (20

 

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