〔馬場(ばんば)〕五左次(2)
「相模板、西駿河板[化粧(けわい)読みうり]の下見講の世話役に〔馬場(ばんば)〕の五左次(いさじ 22歳)を入れるのはいいとして、〔音羽(おとわ)〕の重右衛門(じゅうえもん 56歳)元締のところの嫡男・祇右衛門(ぎえもん 20歳)を抜かすわけにはいかないな」
平蔵(へいぞう 37歳)は、格式にこだわった。
「銕(てつ)さま。〔音羽〕のもそうですが、〔愛宕下(あたごた〕の伸蔵(しんぞう 52歳)元締のところの伸太郎(しんたろう 32歳)さんが、2代目のなかでは、いちばんの齢かさではないかしら」
里貴(りき 38歳)につられ、
「2代目といえば浅草・今戸の〔木賊(とくさ)〕の今助(いますけ 35歳)どんもそうだ」
それに、と平蔵はいいかけて、よどんだ。
上野一帯をとりしきっている〔般若(はんにゃ)〕の猪兵衛(いへえ 35歳)もいる---と、あげかけたのである。
猪兵衛には、盟友の内輪のことですっかり世話をかけていた。
【参照】2010年4月3日~[長野佐左衛門孝祖(たかのり)] (3) (4)
2010年5月13日[長野佐左衛門孝祖(たかのり)の悲嘆]
2010年5月17日~[浅野大学長貞の憂鬱] (1) (2) (3)
2010年12月19日~[浅野家の妹・喜和] (1) (2)
今助は、先代の隠し子だからまあ、2代目といってもとおろうが、猪兵衛のばあいは、上の連中がそっくり島送りとなって手にいれた元締の地位である。
そういう理屈をいって、今回はあきらめてもらおう。
平蔵はこれまで、裏の世界の席次のきまりを気にしたことはなかった。
役人の世界では出仕の年月の早い・遅い順だし、商店では入店順と役iについた順と決まっていた。
これまで、宴会の席の決め方を想いだしてみたが、平蔵の席では、平蔵と知り合った順が優先しているようであった。
2代目ではどうなるのであろう?
父親の順がそのまま引きつがれるのであろうか?
そんなはずはない---。
里貴が結論をだした。
「若い人たちを呼んで座につかせれば、それが順序なのですわ」
{その会合、〔季四〕でうけくれるか?」
「私だって興味津々ですから、とうぜん、引きうけさせていただきます」
「夜ではないぞ。昼餉(ひるげ)だ。若い連中に、いまから夜遊びを教えてはいかぬ」
「では、大人の2人は、おとなの夜遊びを---」
里貴が閨(ねや)の行灯の芯を高くした。
部屋が明るくなった。
明かりの下で、透きとおるように白い里貴の肌が、昂まりとともに首筋から乳房へかけて桜色に染まっていくのを確かめるのが、平蔵の好みであった。
「桜が開きはじめた」
耳元へささやかれると、里貴はいっそうはげしく没入していった。
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