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2011.05.11

川越(かわごし)人足の頭領・安兵衛

「あっしも、足ならしにお伴をいたしやしょう」
川越(かわごし)人足の頭領・〔(すい)天神」の安兵衛(やすべえ 51歳)に会いに、甚兵衛嶋まで行くというと、香具師(やし)の元締の〔扇屋万次郎(まんじろう 51歳)が身支度はじめた。

〔扇屋〕の若いのが、早速に甚兵衛嶋へ報らせに走った。

安兵衛どんをお引き合わせなすった小田原の徳右衛門(とくえもん 59歳)貸元とは、どのようなつながりで?」
しかたなく、平塚の〔馬入(ばにゅう)〕の勘兵衛(かんべえ 54歳)との20年近いつきあいをかいつまんで打ちあけた。

参照】2008年1月16日[与詩(よし)を迎えに] (27
2008年1月31日[与詩(よし)を迎えに] (37)
2011年4月24日[〔馬入(ばにゅう)〕の勘兵衛] () 
2011年4月25日[〔宮前(みやまえ)〕の徳右衛門] (

聞き終えたときには、すっかり身づくろいをすませていた万次郎が、感心したように、
音羽(おとわ)〕の重右衛門(じゅうえもん 56歳)元締といい、〔佐阿弥(さあみ)〕の角兵衛(かくべえ 50がらみ)といい、お武家には珍しいご人徳ですなあ」
「こっちがあまりに世間知らずだから、見ておれないとおもい、助けてくださっているのでしょう。ありがたいことです」

「男が惚れるのだから、おんなはもっとですな」
万次郎が笑ったので、辰次(たつじ 60歳)がお三津(みつ 22歳)とのことを怪しいと勘づいたかとおもったが、そのはずはなかった。
辰次はお三津に会っていなかった。

宮前から大井川筋の甚〔兵衛嶋までは半里(2m)をちょっときる距離であった。
万次郎によると、
「20丁といったところでしょう、足ならしのつもりだから、駕篭はやめておきましょう」

蔵元〔神座(かんざ)屋〕から角樽を求め、松造(よしぞう 31歳)が下げていた。


安兵衛は、川越人足がしめている人足褌(にんそくふんどし)に単衣(ひとえ)の半纏(はんてん)をひっかけた姿であらわれ、
「お大名の前でもこの姿(なり)で通しておりやすんで---」
「寒くおもわれることはないのですか?」
「冬は焚き火であたためておりやす」

小田原の〔宮前〕の徳右衛門からの添え状とともに角樽をさしだすと、
「〔宮前〕のからご用のお手伝いをするように飛脚便もいただいておりやす。なんなりとお申しつけくだせえ」

用件が片づいたことを告げ、江戸から用意して〔荒神(こうじん)〕の助五郎(すけごろう 64歳)とお賀茂(かも 45歳)の似顔絵の刷りものを20枚手渡し、見かけたら、どっちの方向へむかったかを陣屋経由で火盗改メ・本役の役宅あて、送ってほしいと頼んだ。

「相手にばれてもかまいませぬが、くれぐれも、ふんづかまえようなどとはお考えになりませぬように---」
「奇妙なお手くばりでやすが、お指図どおにきちんといたしやしょう」

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