辰蔵のいい分(5)
「辰蔵。父を助けてもらいたい。これから申す3つのうちから、そちの好みのものを選べ」
平蔵(へいぞう 38歳)が、久栄(ひさえ 31歳)の同席のもと、嫡男・辰蔵(たつぞう 14歳)に提示した。
一つ 知行地の上総(かずさ)の武射郡(むしゃこおり)寺崎村(てらさき)の長(おさ)・五左衛門の家へ寄宿し、浅間山の焼き出しによるその後の降灰被害の探査。
寺崎村では、長谷川家分の220石分と、酒井作左衛門政共(まさとも 53歳 500石 うち165石)どのの分も見張ること。
山辺郡(やまべこおり)片貝村では長谷川家の180石分のほかに、本間家、黒川家、石丸家の計580石分にも目をくばる。
酒井家からは応分の手当てがでよう。
一つ ここに、数年前に板木に彫った盗人〔荒神(こうじん)〕の助太郎(すけたろう 65歳=推測)とその女房・お賀茂(かも 46歳=同)の似顔絵と人相書がある。
われがいつか対決と決めておる賊である。
季節は中秋、市中巡回にはふさわしい。
府内の辻番所をのこらずまわり、この両人を見かけたかどうか訊く。
一つ 火盗改メ・贄(にえ) 壱岐守正寿(まさとし 43歳)さま組の見習いに入れてもらい、市中身廻りを補する。
われもそなたと同じ齢ごろのとき、本多采女紀品(のりただ 50代=当時 2000石)さまにお願いして巡行したものだ。
【参照】2008,年2月20日~[銕三郎(てつさぶろう)、初手柄] (1) (2) (3) (4)
手当ては、どれをえらぼうとも、われが5日に1朱(1万円)の割でわたす。
もちろん、黄鶴塾と弓術の稽古日ははずす。
辰蔵は、平蔵のもくろみどおり、2番をえらんだ。
独りで動けるから自由がきくことと、行方がしれなくなった奈々(なな 16歳)に出会えるかもしれないとの浅知恵からであった---というは、2番をえらぶや、立ち寄った辻番所の認め書きをもらってくるように指定されたので、奈々に出会えそうな本所や深川ばかりを廻るわけにはいかなかったからである。
辰蔵を疲れさせることで、念頭から奈々への執着が霧散しようというが平蔵の読みであった。
平蔵は、弓術の師・布施十兵衛良知(よしのり 40歳 300俵)が、ちかごろ辰蔵の「会(かい 引きわけから放矢までの心身のバランス)」がよくなったと褒めていたから、さらに腕に力をつけるために、鉄条入り木刀の素ぶりを50回ずつ増やすようにいいつけた。
久栄とすると、平蔵のおもわくまでは察知しなかったが、うっとうしい面持ちの辰蔵が屋敷にいないことで心情がなごみ、その分、ほかの子たちにかまけることができた。
疲労で、辰蔵は爆睡がつづき、夢精もまれになった。
平蔵の里貴(りき 39歳)の枕頭での看とりもつづいていた。
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コメント
辰蔵くんが立ち直るといいですな。若い時は七転び八起きです。そうやって大きな器に育っていくのですが、近頃の若いのには、通用しないかな。
しっかり! 辰蔵くん。
投稿: 左衛門佐 | 2011.08.02 06:54