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2011.12.23

別刷り『剛、もっと剛(つよ)く』

「ほう。刷りあがりましたか---」
〔箱根屋〕の主人で、[化粧(けわい)読みうり]の板元でもある権七(ごんしち 53歳)が、編輯人でもあり板行の手配人でもある〔耳より〕の紋次(もんじ 42歳)から手わたされた別刷り『(ごう)、もっと剛(つよ)』を、照れぎみにめくった。

西駿州・東遠州板〔化粧(けわい)読みうり〕の板行元をまかされている嶋田宿の本陣〔中尾(置塩 おきしお)〕の若女将・お三津(みつ 25歳)が、3ヶ月ほど前に地元の披露目枠をあつかっている元締・顔役たちにいわれて持ちこんできた案であった
参照】2011年12月6日~[化粧(けわい)読みうり〕の別刷り ]() () (

嶋田宿の本陣は、これまで〔中尾(置塩)〕と書いてきたが、(置塩)が播州の名家で、〔中尾(置塩)〕方の主人・藤四郎がわざわざ(  )書きしていたのは、参勤交代で泊まる西国の大名衆にしらせるためとわかってから、こんごは〔置塩〕と銘記させていただく。

ともかく、お三津の案に、江戸の元締衆も賛成し、宇都宮・〔釜川(かまがわ)〕の藤兵衛(とうべい 48歳)から下野一帯の元締衆へも生薬屋のお披露目をとるようにとの伝言がとんだ。

別刷りの表題---『(ごう)、もっと剛(つよ)』を選んだのも府下の元締衆であった。
いくつになっても男たちがこころの底で希(のぞ)んでいるところをぐさっとえぐっている、と賛成札が万票に近かった。

同席していたお三津は頬を朱(あか)くしただけで黙していたが、座敷を貸していた小料理〔蓮の葉〕のお(れん)が40歳の大年増のくせをしてけろっと、
「おんなが求めているのも、それですから---」

_180_5手わたされた権七がちょっと照れたのは、表紙絵であった。
あきらかに交接中とわかる男女の頭部が大うつしに描かれていた。


_120_2「箱根屋〕さん。裏表紙をご覧になってくだせえ」
紋次が笑いながらいった。

「絵描きさんは---?」
長谷川伯好(はくこう)とおっしゃる、当年72歳の手練(てだ)れさんで---」
「場数をふんでおいでだ---」

表紙をめくって、権七はさらに照れた。
多岐の若先生も、おやんなさるねえ」

目次---

玉棒の巧みな使い方
思わず「死ぬ」と口走らさせる法
互いに歓喜に達する交わり方
前戯のあれこれ
女性の快感の徴候の看察
:そのとき、女性がしてほしがっているのは
そのときの女性のしぐさの意味
体位のいくつか
性力をもっと剛(つよ)くする漢方
玉棒が短小なとき
玉門がのびてしまっているとき


試みに『玉房指要』という古代の支那の書物から引かれた「玉棒の巧みな使い方」をひろい読みしてみた。

交接に、とくに変わった道があるわけではない。
自分も相手もこころをくつろがせ、なごみながら行うことがなにより大切である。
借金のことも、上役のことも、閨(ねや)にもちこんではならない。
女性も、相手の年齢や実入りへの不満は寝床では忘れ、専心、愉しもうと希(のぞ)むこと。

男は、女性の臍下丹田(せいかたんでん 下腹部)をもてあそび、女性の口を吸い、子宮を指で深く押すとか小きざみにゆすったりして、女性をその気を高めるようにみちびく。

もちろん、女性にはこちらの玉棒をにぎらせて膨張・硬直、陽気が充実してきつつあることを感じさせる。
それにつれて、女性の陰気も高まり、その徴候があらわれてくる。

酒気をおびでもしたよう熱く燃えている耳を軽く噛んでやろう。
乳房は掌にあまるほどにもりあがり、乳首が硬く起っている。
その乳首を舌でまさぐったり軽く吸ったり、もてあそぽう。
首やうなじが小さく噯動しているはずだから、ここにも口づけしたり指でなぜたりする。
やがて、両脚をふるわせ、みだらな身ぶりで腰をすりよせてくる。

ここにいたったら、陽棒の先端を玉門にごく浅く挿し入れてとどまる。
その状態でじっと相手の気を陽棒の先端から吸収するのである。

唇は吸いあっているな。
おんなは、五臓の精液をかならず舌の先端から湧きださせている。
この玉漿(ぎょくしょう 唾液)をほおっておく手はない。
こちらの肌に精気をもたらす玉漿だから、たっぶりいただこう。

道を遠いところに求めるな。近くにある。
しかし、俗人というのは困ったもので、そのことに気がまわりもしない。


一つの章だけを拾い読みした権七が、鼻腔をひらき、うなじをかき、うなった。
紋次が笑いながら、
「〔箱根屋〕さんほどの達人がうなりなさるんだから、これは売れますぜ」

「たしかに売れるだろうが、長谷川さまは、元締一軒あたり500部かぎりとおっしゃっていなさる」

 
ちゅうすけ注】『医心方』ついては槇 佐知子さん訳の筑摩書房版を参考にさせていただきました。

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