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2006.02.04

浪人盗賊・西村虎次郎

『鬼平犯科帳』文庫巻16に収められている[火つけ船頭]で、思案橋たもとの船宿〔加賀や〕の船頭・常吉(29歳)の女房おとき(24,5歳)を寝取ったのが、深川・黒江町の同じ裏店に住む不逞浪人・西村虎次郎である。
(参照: 船頭・常吉の項)
ある日、下痢がひどいので仕事を中退(び)けしてわが家へ帰ってみると、裸の西村虎次郎が女房が組み敷き、女房は女房で虎次郎の首に白い腕を巻きつけていたではないか。
隣の大工の女房がいうところによると、その後虎次郎は、おときを自分の家へ入りびたらせ目にあまるようになってきているという。

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年齢・容姿:30がらみ。顔に2か所の傷跡。凄みのある声。
生国:不明。江戸での悪事のかずかずからみて、江戸育ちの浪人ともおもえるのだが。

探索の発端:南伝馬町の畳表問屋〔近江屋〕の裏の板塀へ放火によって近隣が騒ぎはじめたので、押し入っていた〔関本(せきもと)〕の源七一味は、お盗めをあきらめて逃亡した。しかし、放火犯・常吉は一味に西村虎次郎が加わっていたことを知り、火盗改メへ投書する。
(参照: 〔関本〕の源七の項)
その投げ文から虎次郎の長屋が見張られ、訪れた口合人〔塚原(つかはら)〕の元右衛門が関係している盗人たちがつぎつぎとお縄にかかった。
(参照: 〔塚原〕の元右衛門の項)

結末:西村虎次郎は、蛤町の堀川岸で辻斬りをやろうとしたところを、鬼平に捕縛され、死罪。虎次郎の悪業を知りながら情を交わしていたおときは遠島(そのまえに密通の罪で死罪のはずだか?)。
翌年、常吉は現行犯で火刑。

つぶやき:この篇では、火付けと盗みを別々の人物が行ったことになっているが、史実を調べると、放火の上で混乱にまぎれての盗みというのは少なくなかった。
また、火付盗賊改メの役称のように、放火犯の割り出し逮捕も火盗改メの重要な役目である。
で、そのことをふまえて、池波さんに、
「小説では、放火犯の話がすくないようですね」
というと、池波さんは、
「火事の描写はむつかしいのだよ。それに、ぼくは火事がきらいでね」

それから数カ月もしないうちに発表されたのが長篇[炎の色]である。しかし、池波さんは「やりのこしている仕事がある」ということで、10年以上もごいっしょにやってきていた読売映画広告賞の審査員を辞退されたので、[炎の色]について会話を交わす機会はなかった。

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