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2006.02.16

〔武蔵屋(むさしや)〕のおこう

『鬼平犯科帳』文庫巻5におさまっている[深川・千鳥橋]の主人公---三ノ輪の〔魚伝〕の2階に間借りしている大工の〔間取(まど)り〕の万三を、〔己斐(こひ)〕の文助がまっているからと、駕篭を仕立てて迎えにいった、堅気の内儀風の女---といっても、ほとんどの読み手は記憶していまい。
(参照: 〔間取り〕の万三の項)
(参照: 〔己斐〕の文助の項)
深川・加賀町で煎餅を商っている〔武蔵屋(むさしや)〕の内儀ということだが、じつは〔鈴鹿(すずか)〕の弥平次の江戸での盗人宿だから、おこうも当然、女賊にちがいない。
(参照: 〔鈴鹿〕の弥平次・3代目の項)
じつは、こういう端役までは紹介するまでもなかろうともおもったが、いや、「神は細部に宿りたもう」---作家の腕のふるいどころは細部にある、ととりあげてみた。
おこうの、いかにも堅気風の言葉づかいや所作を読みとるのも一興。

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年齢・容姿:中年---とあるから、40歳前後か。堅気風の身なり。
生国:屋号の〔武蔵屋〕からいって、亭主の加兵衛は葛飾あたりの出か。煎餅屋というから、野田からの道筋の村の出とみた。
おこうは、江戸で知り合った女賊であろうか。

探索の発端:>〔大滝〕の五郎蔵が現役のお頭だった時分、日本橋南1丁目の呉服問屋〔茶屋〕の間取り図を万三から買ったことがある。そのことを、「お縄にはしない」との約定のもとに鬼平へ話した。
鬼平は、間取り図になっている残りの商店を聞くために、五郎蔵に破牢の形をとらせて万三を探らせた。
(参照: 〔大滝〕の五郎蔵の項)
万造の家は見張られてい、〔武蔵屋〕へも目くばりされていたから、加兵衛もおこうの面もわれていた。

結末:万三があわや撲殺されるかというとき、打ち込みがあり、〔鈴鹿〕一味は、加兵衛・おこうともども捕縛。鬼平に刃物をふるった弥平次は惨殺。

つぶやき:おこうの堅気風は板についている。江戸生まれの江戸育ちとみた。池波さんとしては、自分が育った阿部川町あたりの内儀のイメージで描いたのであろう。

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