〔あきれた奴〕の配慮
『鬼平犯科帳』でぼくがベスト5に入れている一編が、文庫巻8に収録されている[あきれた奴]。
太宰 治の[走れメロス]を連想させ、男同士の信義と約束を守ることの大切さを、みごとに描いている。
中学の教科書に載せたいほど。
ところで、時間と手間をすごくかけた盗賊検索リストを、当ブログにアップしながら、面白い発見があった。
[あきれた奴]に登場する盗人は3人。
〔鹿留(しかどめ)〕の又八、
その又八へ甥の〔雨畑(あまばた)〕の紋三を紹介し、
手助けを頼んだ〔八町山(はっちょうやま)〕の清五郎。
オレンジ色の文字をクリックで、3人の生地が読みとれる。
〔八町山〕の清五郎
山梨県南高麗郡鰍沢(かじかざわ)町十谷(じゅっこく)
〔雨畑〕の紋三
山梨県南高麗郡早川町雨畑
田舎における叔父・甥の関係だから、2人の生地の距離がそれほど離れていてはおかしい。
十谷温泉から道なりに雨畑渓谷まで5里(20キロ)ってところ。
もちろん、どちらも交通がきわめて不便な土地---だが、池波さんは若いときに踏破していると想像できる。
明治20年ごろに作製された山梨県の地図(部分)
上の赤○が十谷 国道52号からそうとう深く山あいに入る。
下は雨畑。こちらも渓谷をかなり入る。
そして、 〔鹿留〕の又八
山梨県都留市鹿留(ししどめ)
又八は〔蓑火(みのひ)〕の喜之助の下で鍛えられてからひとり働きに。
〔八町山〕の清五郎は〔夜兎(ようさぎ)〕の角右衛門のところから独り立ち。
で、2人は気があっていっしょにお盗めをしたというが、ともにの甲斐国育ち、同じ国ということも、池波さんは意識していたろう。
つぶやき:
ここまで裏読みすると、小説の面白さ、池波さんの周到さがしっかり汲みとれるといえようか。
『鬼平犯科帳』は、深く読めば読むほど、上質の昆布を噛んでいるように滋味がにじみでてくる。
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コメント
>>『鬼平犯科帳』は、深く読めば読むほど、上質の昆布を噛んでいるように滋味がにじみでてくる。
まさに、その通りです。
投稿: ぴーせん | 2006.08.08 22:14
>ひーせんさん
シャーロキアンって呼ばれている人たちが世界中に数万人いらっしゃいます。
ショータリアン(イラストレーター:長尾みのるさんのぼくへの命名)でも、鬼平ファイルでも、名称はなんでもかまいませんが、ほんとうの大人のファンを糾合したい感じです。
投稿: ちゅうすけ | 2006.08.09 15:24