宣雄の同僚・先手組頭(8)
「いや、お竜(りょう)どのには、湯を借りるためではなく、知恵をお借りに参ったので---」
〔中畑(なかばたけ)〕のお竜(29歳)から、背中をお流しする、と言われた銕三郎(てつさぶろう 23歳 のちの鬼平)は、われにもなくあわてた。
「ここへ、いらっしゃるまで、ずいぶんと汗をおかきなりましたでしょう? お躰が臭います。お流しなさいませ。あとになりますと、お勝(かつ)が帰ってきて、湯殿の私たちをみると、嫉(や)くでしょうから---」
お勝(かつ 27歳)は、ここから、対岸の船宿〔水鶏(くいな)屋〕へ通っている。
【参照】2008年11月2日[甲陽軍鑑] (2)
お竜と同郷---甲斐国八代郡(やつしろこおり)の中畑村の生まれで、世間とちょっと異なる躰の関係になったので、いっしょに村を捨てて、11年がすぎた。
【参照】お勝は、2008年9月13日[〔仲畑(なかばたけ)〕のお竜] (7) (8)
銕三郎は、この寓居の湯殿には思いでがある。
大盗・〔狐火(きつねび)〕の勇五郎(ゆうごろう 45歳=当時)に囲われたお静(しず 18歳=当時)に、字を教えるために通ってきていた。
夕立がきた日、庭の洗濯物をとりこむので2人ともずぶぬれになり、湯殿で着替えたが、そのあと、蚊帳の中で躰が重なってしまった。
【参照】2008年6月2日~[お静という女] (1) (2) (3) (4) (5)
浴室は、40男の〔狐火〕が18歳のお静とじゃれあうためにひろく普請しなおしてあったのを、お竜はそのまま使っている。
湯舟も、2人がいっしょに入れるほど、大きかった。
湯加減は、さきほどお竜がつかったままで、ぬるめではあったが、夏なので間にあった。
それとなく、脱ぎ場に目をやる。
ぱっと浴衣を落としたお竜は、湯文字もつけておらず、たちまち、素裸になった。
想像していたよりもはるかにゆたかな肉置(ししおき)で、べつのお竜がそこにいるみたいにおもえた。
入ってきたお竜は、湯をかけただけで、銕三郎に腰置きを示す。
背をさしだした銕三郎へ、訊いた。
「お静さんにも、背中の垢(あか)こすりをしてもらわれましたか?」
「いや---」
(お静との情交のことを、〔狐火〕から聞いているらしいな。それなら、隠すこともない)
お竜の垢こすりは、やさしく、それでいて、力強かった。
「剣術でお鍛えになっていることが、このぷりぷりしたすじでわかります」
上膊の丸みも、おんなおとこ(女男)とはおもえないほどである。
いや、銕三郎がおんなおとこの裸体をもみたのは、お竜が初めてではあったが。(栄泉『ひごずいき』 湯殿のお竜のイメージ)
ただ、〔風速(かざはや)〕の権七(ごんしち)から、〔荒神(こうじん)〕の助太郎のややを生んだらしい、おんなおとこだった賀茂(かも)の、浅黒いごぼうのようだったという風姿を聞いていたので、お竜の裸も、なんとなく、そう想像していたのである。
【参照】2008年3月27日[荒神の助太郎] (10)
2008年10月28日[うさぎ人(にん)・小浪] (6)
が、先刻、かわいらしい小さな乳首がついている豊かで白い乳房を目にいれて、かんがえをあらためた。
さらにいま目にした全裸の、腰の張りもかなりのもので、銕三郎は、もういちど、胸の中でつぶやいたものである。
(これで、おんなおとことは、もったいない)
ねじった手ぬぐいが、脇腹にのびてきた。
「あ、そこは、拙の手でもとどきますゆえ---」
「こうされるの、お嫌ですか?」
「いえ---ただ、くすぐったい」
「こちらを、お向きになって---前をお洗いします」
銕三郎は、躰の向きを変えた。
目の前に、お竜の白い裸体があり、両腿をあわせているのに、おさまりきらない黒い茂みがなまめかしく映った。
前にかけた手ぬぐいが、下からむくむくと盛りがる。
お竜はそれには目もくれないふりで、左手で銕三郎の肩をおさえ、右手の手ぬぐいを首すじから胸へ上下させる。
そのひじが、狙ったように、銕三郎の手ぬぐいの支柱の先端に、ちょいちょいと触れる。
顔を真っ赤にして、耐える。
「長谷川さま。男衆を見て、お竜の下腹が熱くなったのは、長谷川さまがはじめて---妙な気分です。29のこの齢まで、覚えがなかったことなのに---」
こらえきれなくなったお竜が、銕三郎の下腹の手ぬぐいを投げすて、尻を銕三郎の太ももに乗せた。
指で二、三度あたりをつけ、腰を沈める。
乳首を銕三郎の口にふくませ、両腕で銕三郎の首を巻いた。
腰がゆっくりと動きはじめた。
が、すぐに停めた。
自分からしかけるのは、手びかえたのである。
耳元でささやく。
「男の人のもの、生まれて初めて---弾みがあって、熱いのですね。伝わってきます」
「お勝どのに、申し開きができない」
「あれと、これとは、別、なんですから---」
意味のつかないことをつぶやく。
お竜の仕草の意味が伝わり、いじらしさを感じた銕三郎は、湯舟で背をささえてから、尻をかかえてゆすぶってやりはじめた。
熱気がこもってきた。
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