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2010.11.04

お勝の杞憂

「殿。お(かつ 37歳)どのから、お(つう 11歳)が文を預かってきました」
郎党の松造(まつぞう 27歳)が、下城どきに、ほかの供にかくして渡してた。

は、日本橋通り3丁目箔屋町の白粉問屋〔福田屋〕文次郎方で、契約化粧(けわい)指南師として、お乃舞(のぶ 19歳)ともに稼ぎまくっていた。
このごろでは、お乃舞の妹・お(さき 16歳)まで見習いとして働いているらしい。

そのことは、5日ごとに朝一番に結髪してもらっている〔三文(さんもん)茶亭〕の看板むすめ・おから、義父・松造を経由して平蔵(へいぞう 33歳)の耳にとどいていた。

参照】2010年10月14日[〔三文(さんもん)茶亭〕のお粂(くめ)] (


---お目もじして、ご相談いたしたきことができました。
夕方でも、お店にお立ち寄りくださいませんか---かつ。

歩きながらほどいた結び文に、こうあった。

鍛冶橋をわたり、丸の内をでたところで松造を呼びよせ、
「〔福田屋〕へ立ち寄らねばならぬゆえ、先に帰館し、おを迎えに行ってやれ」
裃を抜いてわたすと、すばやくはさみ箱から羽織をとりだした松造が、strong>平蔵の肩にあてた


〔福田屋〕をのぞくと、帳場から鼻眼鏡ごしに目ざとく見つけた一番番頭・常平(つねへえ 52歳)が、小僧をおのところへ報らせに走らせた。

長谷川さま。おかげさまで、お髪は大評判でございます」
「それは、重畳。こんごも、お、お乃舞をよしなに、な」

身姿(みなり)をととのえたおが、番頭に会釈をし、平蔵を押すようにして店をでた。
陽が長くなりはじめてい、七ッ半(午後5時)前なのに、陽は沈む気配さえ見せなくなっていた。

さま。朝から働きづめで汗を流したいのですが、坂本町の家でもよろしいでしょうか。湯をわかして行水します」
「ちょっと遠くてもよければ、内湯のある旅籠がある」
「遠いって、どのあたりでございますか。まさか、寺島村の〔狐火(きつねび)のお頭の寮では---?」

このころ、町人の家は湯殿をつけることをほとんど禁じられており、もっぱら銭湯に通っていた。

「いや、深川の浄心寺裏の山本町の旅籠〔甲斐山〕だ」
「旅籠なら、お酒もでますね?」
「多分---」
「猪牙(ちょき)でひと漕ぎです」

箔屋町の突きあたりの楓川の船宿から、仙台堀の亀久橋のたもとまでおのいうとおり小半刻(こはんとき 30分)とかからなかった。

〔甲斐山〕では、2本差と町女房風の客にいささか不審をおぼえたようだが、おはこころえたもので手早く、なにがしか、女中につかませ、
「風呂は、2人でも遣えますか?」
掌の中の額を感触で推量し、
「はい。すぐにお浴衣をそろえてお持ちします」

背中を流してもらいながら、平蔵がうしろ手におの尻部をまさぐり、
「いちだんと肉(しし)置きがたくましくなったな」
さまのは、筋肉ばっかり---」
重い乳房が押しつけられた。

部屋には早くも布団が敷かれていたが、酒肴を頼むと女中が二つ折りした。

膳を運んできた別の女中にも、おはぬかりなくこころづけをにぎらせる。
37歳、その世馴れぶりはさすがで、伊達には齢をくっていない。

盃をあわせ、
「ところで、相談ごととは---?」
「京都以来の、6年ぶりの逢う瀬です。お急(せ)きにならないで---」

参照】2009年8月4日~[お勝、潜入] () () () (

「最初は、三条の旅籠〔津ノ国屋〕の中庭が見えるお部屋でした」
「よく覚えているな」
「太い。硬い。やさしい。熱い。長いものが奥の骨にあたりました」
「うむ」
「躰が少女のようにやわらかだ---とおっしゃってくださいました。うれしくて、うれしくて、ちょっと腰がうごいたら、初めての快感が躰をつらぬきました」

「そうだったかな」
「この6年、忘れられませんでした」

盃をだした平蔵の手をにぎり、
「2度目は、東川端三条上ルの〔俵駒〕でした」
「そうだったかな」
「おんなは、躰がおぼえたことは、決して忘れません」
「こわいな」
不謹慎にも、おがしったら怒りそうなことが頭をよぎった。
(里貴(りき 34歳)も覚えてくれているであろうか)

参照】2009年8月24日~[化粧(けわい)指南師お勝] () () () 


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149お竜・お勝・お乃舞・お咲」カテゴリの記事

コメント

お竜さんが居なくなったいま、お勝さんこそ、お夏の考え方や性癖について平蔵さんに助言できるただ一人の女性です。
お夏に幽閉されたらしいおまささん救出のヒントを平蔵さんに与えることができるのはお勝さんです。
あと16年、つかず離れず、ときどき寝をともにしながらでも、つきあっていてあげてください。

投稿: mine | 2010.11.04 05:39

お竜、お勝、お賀茂、お夏の性の世界にはまったく不案内なんです。
それでも、おまさの救出という使命感でつづけているようなものです。
もし、こんな本が参考になるよ、とか、こんな友人がいてね、とか、手がかりになりそうな断片がありましたら、ご教示いただけるとありがたいです。
よろしくお願いします。

投稿: ちゅうすけ | 2010.11.04 06:53

平蔵とお勝の性関係というのも、不思議ですね。平蔵がお勝を両刀遣いにしたのか、それとも、女性はみんなその気配をもっているのか。
人の体の不思議がそのまま書かれています。

投稿: tomo | 2010.11.04 09:22

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