〔玉や〕の弥六
『鬼平犯科帳』文庫巻1に収められている[老盗の夢]は、本格派の盗賊が滅びゆく時代を象徴しているかのように、〔蓑火(みのひ)〕の喜之助が畜生ばたらきの盗人たちに殺されてしまう物語。
(参照: 〔蓑火〕の喜之助の項)
悪党たちは、シリーズの初篇で一昨年(天明7年 1787)火盗改メに就任早々の鬼平に捕縛された〔野槌(のづち)〕の弥平一味の生き残り---〔印代(いしろ)〕の庄助、〔火前坊(かぜんぼう)〕権七〔岩坂(いわさか)〕の茂太郎だが、同じ〔野槌〕の息がかかっているといっても、〔玉や〕の弥六は3人とはいささか異なり、四谷・伝馬町1丁目で〔貸座敷・御料理屋を営んでいる。
(参照: 〔印代〕の庄助の項)
(参照: 〔火前坊〕の権七の項)
(参照: 〔岩坂〕の茂太郎の項)
年齢・容姿:どちらも記述はないが、50はすぎていよう。太り気味。
生国:首魁の〔野尻〕の弥平に江戸での盗人宿をまかされるぐらいだから、江戸に通じているとみて、府内か近郊育ち。
事件の顛末:物置小屋を抜け出した〔蓑火〕の喜之助は、九段坂下で景気づけの一杯をやつている悪党3人を始末するが、自分も刺殺されることは、鬼平ファンなら百も承知。
問題は〔玉や〕弥六。その正体を知っている4人は死んでしまった。残るは座頭・彦の市だが、彼が捕縛されるのはずっと先のこと。それまではそのままいかがわしい営業をつづけていたことであろう。
(参照: 座頭・彦の市の項)
つぶやき:『江戸買物独案内』(文政8年 1824刊)に、「貸座敷・御料理」と謳っているのは、図を掲げた武蔵屋三右衛門だけである。
この「貸座敷」から「売春」を推察した池波さんは、さすがである。
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コメント
いかがわしい商売なのに「江戸買物独り案内」に
広告を載せるというのは、凄い度胸ですね。
投稿: みやこのお豊 | 2006.03.22 17:10
お久しぶりです。
タイトルを変えたのですね。
渋くなりました!
投稿: impression | 2006.03.23 16:15
>みやこのお豊さん
『江戸買物独案内』の〔武蔵屋〕の広告は実際にあった店のもので、『鬼平犯科帳』に書かれた〔武蔵屋〕はこの広告をヒントに創作された店です。
投稿: ちゅうすけ | 2006.03.26 03:08
>impression さん
ほんと、お久しぶりですね。
タイトルを変えたのは、この1年4か月---約460日---つまりはほぼ460人で盗人はほとんど出つくしたので、これからは、長谷川家、幕臣、与力、同心、協力者など、こちら側の人物にライトをあててみようと考えたからです。
これからも、ときどきお遊びにいらしてください。
投稿: ちゅうすけ | 2006.03.26 03:15