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2008.05.18

〔相模(さがみ)〕の彦十(3)

数年前、某テレビ局の鬼平を語るといった趣向の番組の終了後の、ちょっとしたパーティで、江戸屋猫八師匠がこんなことを打ち明けてくださった。
「最近、やっと『鬼平犯科帳』全巻を揃えて買ったんですよ」
(えっ---)
とおもった。

そうすると、猫八師匠は、シリーズ全巻を通して読んだ上での彦十役づくりでなく、出演のたびごとにその篇かぎりの彦十を演じていたことになるではないか。
(そうか、猫八師匠も、彦十を、かなりチャランパンな人物と見抜いていたんだ)

いや、池波さん自身も、当初は、鬼平の過去と現在の繋ぎ役の一人であり、もう一人の笑いの引きだし役(コメディ・リリーフ)である〔笹や〕のおの口喧嘩の好敵手(?)でもある彦十の扱いに、あまり重きを置いていなかったようにおもえる。

ちなみに、鬼平の過去と現在の繋ぎ役でもある茶店〔笹や〕のおのシリーズへの初顔見せは、文庫巻7---第49話[寒月六間堀]。p217 新装版p227

5月14日にあげた、彦十登場篇のリストから、当初の2年間分にあたる24編分を再録してみる。
池波さんは、『鬼平犯科帳』シリーズの連載は、1年か2年で書き終えるつもりであったと、いろんなところで明かしている---2年なら、24編分である。
第24編目は[密通]である。

[1-2  本所・桜屋敷] 『オール讀物』1968年2月号 
[1-8  むかしの女]  『オール讀物』1968年7月号  
[2-6  お雪の乳房]  『オール讀物』1968年2月号  
[3-1  麻布ねずみ坂] 『オール讀物』1968年4月号 

ご覧のとおり、当初の2ヵ年・24篇中、彦十が出ているのはたったの4編---登場率1割6分7厘。この程度の打率だとプロ野球では2軍かベンチ・ウォーマーでしかない。

ついでに補記しておくと、『鬼平犯科帳』シリーズは、連載掲載誌『オール讀物』(文藝春秋)で、第24編目の[密通]から、同誌の最後尾に配されることになった。
いわゆる、「トリ」をとったのである。

701_320
(『オール讀物』1970年1月号目次・部分 [密通]が最後尾に)

この場所は、もっとも人気のある連載物に与えられる。

池波さんが連載の延長を決意した時期の推測だが、東宝へ移籍なさった松本幸四郎丈(先代 のち白鸚)のテレビ化出演を、池波さんと長谷川伸師の会で同門だった故・市川久夫プロデューサーが取り付けたのが、第18話[艶婦の毒]あたり。

そう類推する根拠は、一つには、テレビ化はふつう、2クール(26週)分で企画すること---この場合、原作がたりない分は、池波さんから、鬼平シリーズ以外でも使えそうな単発短編(△)は脚色していいとの許諾がでていたから、2クール26本は容易であった。
さらに、幸四郎丈の体がほとんどあいていたから、つめて撮影できた。
三つ目の根拠は、テレビ化には、通して登場するヒロインが必要との市川フ゜ロデューサーの助言で、第25話目におまさが造形されていること。

さて、幸四郎丈=鬼平彦十に扮したのは、河村憲一朗さんであった。

テレビ放送26本は、
 血頭の丹兵衛  1969.10.7
△四度目の女房  1969.10.14
 谷中いろは茶屋 1969.10.21
 蛇の眼       1969.10.28
△怪談さざなみ伝兵衛 1969.11.4
〇本所・桜屋敷   1969.11.11
 暗剣白梅香    1969.11.18
 密偵(いぬ)    1969.11.25
 唖の十蔵      1969.12.2
 女掏摸お富    1969.12.16
 老盗の夢      1969.12.23
 埋蔵金千両    1969.12.30
 お雪の乳房    1970.1.6
 むかしの女     1970.1 13
 駿州宇津谷峠   1970.1.20
△熊五郎の顔    1970.1.27
△市松小僧始末  1970.2.6
 霧の七郎      1970.2.13
 山吹屋お勝    1970.2.20
 浅草御厩河岸   1970.2.27
〇血闘        1970.3.3
△罪          1970.3.10
△八丁堀の女    1970.3.17
△男の毒       1970.3.24
△井筒屋おもん   1970.3.31
(〇=原作に彦十が登場 △=『犯科帳』シリーズ外)

上のテレビ化26本の脚色で、彦十がどういう形で顔をみせているかは未調査だが、原作では[血闘]だけに登場している。

また、テレビ化の冒頭のほうに原作にある篇を重点的に配置しているのは、原作を『オール讀物』連載中なり、第1巻(1968.12.1)、第2巻(1969.12.1)として発売されていた単行本の読者のことを考慮したのであろう。

さて、このテレビ放映6ヶ月中の『オール讀物』の連載に、彦十が登場した篇はない。
ということは、池波さんの中に、彦十は、まだ、それほど大きな地位を占めていなかったともいえそうである。
   
参照】 [おまさ・少女時代] (2) (3) 

【参照】[相模(さがみ)〕の彦十] (1) (2) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12)

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