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2011.02.20

豊千代(家斉 いえなり)ぞなえ(6)

天明元年(1781)閏5月11日の『徳川実紀』に---

奏者番にて寺社奉行兼し太田備中守資愛(すけよし 43歳 掛川藩主5万石)、少老酒井飛騨守忠香(ただか 67歳 鞠山藩主1万石)西城少老となり---
(括弧内は、ちゅうすけが補記)

この発令を耳にした平蔵(へいぞう 36歳)はおもいさだめ、与(くみ 組)頭の牟礼(むれい)郷右衛門勝孟(かつたけ 60歳 800俵)を通じ、番頭・水谷(みずのや)出羽守勝久(かつひさ 59歳 3500石)に、夕刻、屋敷へ祝賀に伺いたいと申し出た。

勝久の継養子・兵庫勝政(かつまさ 38歳)が、西丸の若年寄になった酒井飛騨守忠香の三男であったのと、12年前の初見同士との理由をつけた。

【参照】2008年12月1日~[銕三郎、初お目見(みえ)] () () (3) (4) (5) (6) (7) (8) 

水谷出羽)の実父・行快(ぎょうかい)は、京師祇園の別当宝寿院の執行であるが、じつは越前鞠山藩祖・酒井忠稠(ただしげ)の三男で、あいだがらをたどると、勝久は年齢は逆だが、忠香の叔父にあたる。

平蔵は、松造(よしぞう 30歳)を茶寮〔季四〕の包丁人見習いの春吉(しゅんきち 20歳)とともに日本橋の魚市場へやり、鯛を購わせ、芝三田寺町の水谷家へやり、出羽守の帰館とともにおろすように手配した。

水谷家では、いまだ出仕の機をえていない勝政も顔をみせた。
祝辞のあとは、酒となった。
数献交わしたところで、
酒井侯が西丸の少老に再任なされた真意は奈辺に---?」
出羽守は、しばらく沈黙していたが、よそごとのような声で、
「儒学好きの(太田飛騨)どのの重石であろうよ」
「といたしますと、飛騨侯は、やはり、民部卿(一橋治済 はるさだ)さまの線から---?」
「危なげなことはこれまで。この鯛、みごとな包丁さばきじゃな」
「恐れいります」


うっかり写し忘れるところであった。
天明元年(1781)閏5月11日の『徳川実紀』には、つづきがあった。


御側・小笠原若狭守信喜(のぶよし 56歳 3000石)、松平因幡守康真(やすまさ 64歳 6000石)、菊間縁側詰・大久保志摩守忠翰(ただなり 46歳 5000石)、大番頭稲葉紀伊守正邑(まさくに 69歳 3000石)西城の御側となり---

小笠原若狭守信喜大久保志摩守忠翰は、紀州系で、国元では30石(未家督。家柄は500石格か)と700石であった。


さらに同4月19日の項。


一橋の老田沼能登守意致(おきむね 41歳 800石)小姓組番頭に准じ、西城につけられ、取次のことを見習しめニ千俵を給する。


とある。
田沼意次の甥で、先4月に、次のような請い状(大意)が意次の手元へとどけられていた。

「豊千代さまをご養君としてお召しになるという、きわめて重大なご案件をご内示いただき、家老どもとしても合議を重ねた末、家老を一人、若さまへお付けすることをお許しいただきたく、お願いする次第であります。人選の結果は、本状をお届けする田沼能登守が適任と決まりました。いえ、ご宿老とのご縁をもとに申しているのではございませぬ。能登は年齢は若くはありますが、なかなかの出来物であります。ご評議の上、なにとぞ、能登をご指名くださくますよう、お願いもうします」

原文は、辻 達也さん編・注『一橋徳川文書摘録考註百選』(群書類従刊行会)より。
同書の辻さんの解説を引用する。

田沼意致は田沼意次の弟意誠の子、父は始め一橋邸附切の身分であったが、恐らく一橋宗尹の希望によるのであろう、宝暦九年(1759)一橋邸附人に昇格し、一橋家老に任ぜられた。
そまため意致はまず公儀の小姓組番士に任ぜられ、その後昇進を重ね、安永七年(1778)七月ニ十七日、公儀目付から一橋邸家老となった。
通説この人事は田沼意次の勢力拡大の野望に基づくといわれるが、私はむしろ一橋が意次の意を迎えようと意図したものではないかと推察している。
豊千代に付けて公儀をの役職に推薦したのも、意次から種々の便宜を得ようという治済の同様の意図からと考えている。

1_360
2_360
(小笠原若狭守信喜の個人譜)


1_360_2
2_360_2
(大久保志摩守忠翰の個人譜)

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