日野宿への旅(4)
たずさえてきていた腰丈の桜色の閨衣(,ねやぎ)に着替える前に、
「月魄(つきしろ)に、お寝(やす)み、ゆうてこよ」
奈々(なな 18歳)はしばらく戻ってこなかった。
薄桃色に顔を上気させて部屋へ入ってきた。
「月魄に、乳でもしゃぶらせていたのか?」
「ううん。顔をすりつけて放してくれへんかってん。明日もいっしょやて、なんべんもゆうてきかせ、やっと戻ってこれたん」
閨衣の胸を大きくひらき、右膝を立ててすわり、
「蔵(くら)さんと、朝までいっしょがほんまになって、夢みたいや」
「乳のふくらみが大きくなったようだな」
「蔵さんのもみもみがうまいよって---大きゅうなってん、うちにも、わかるん。掌におさまりきらへんもん」
腰を移し、もたれかかると、平蔵(へいぞう 40歳)が肩を抱き、掌を乳房にかぶせ、指のあいだに乳頭をはさみ、微妙にうごかす。
、
「きょう、月魄の上でずっと膝をしめてたん。奈保(なお 22歳)はんもすすめくれてたし---」
「奈保どのに話したのか?」
奈保は同じ紀州の貴志村の出身で、いまは医師の多紀安紀元簡(もとやす 31歳)の内室におさまり、子を育てている。
「うん。安(やす)先生も、ええかも、ゆうてくれはったと---」
「おいおい、閨(ねや)ごとを外に洩らしてはならぬ」
「おんな同士やと、おっぴろげぇ」
「安(や)っさんは男だ。顔があわせられなくなる」
2人きりのときは、紀州弁になったが、それを可愛ゆくおもうようにもなってきている平蔵であった。
「膝じめの効きめ、試す---?」
「奈々のは、使いはじめたばかりだから---試すまでもなく---」
「使いすぎると、ゆるむん?」
「いや、おんなは感度があがる」
「あげてぇ---」
満足しきって熟睡している奈々が、下腹へあてている手をそっとはずし、行灯の灯元へ座った平蔵が、寺社奉行から渡された留め書きを読みかえしはじめた。
府中から3里半(14kkm)ほど北西の百草(もぐさ)村にある慈岳山(じがくさん)松蓮(しょうれん)禅寺の高僧の縁女の男児(6歳)が、近くの淺川のほとりで姿を消した。
草履の鼻緒を切らした男児に、子守りが新しい草履を家へとりに戻ったあいだことであった。
村中をさがしたが見つからず、怪しい人影を見かけた者も名乗りでていない。
(かかわりあいを避けているのだ)
川さがしもしたが、淺川にはそれらしい遺体はなかった。
多摩川べりの村々へは探索状をくばった。
(ところで、松蓮禅寺の高僧というのが、この宿の亭主のいったいた、和州・宇治にある黄檗(おうばく)宗の総本山・万福寺からきた大和尚だとすると、なぜ、飛ばされたのか?)
【参照】2011年10月9日~[日野宿への旅] (1) (2) (3) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12)
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コメント
弛緊(ちきん)談義というのですか、自分では採点できないから、きわどいけど気にります。
奈々さんが先輩の奈保さんと話しあっているのってすごくわかります。
けど、それって弛緊うんぬんではなく、愛情の深浅の度合いじゃないかしら。
投稿: mine | 2011.10.12 05:32
奈々ちゃんと月魄が親しみあっているの、すごくわかります。
奈々ちゃんの家族のことはまだ出てきてないけれど、里貴おばさんとは死別し、平蔵さんは頻繁にはきてくれない。一方の月魄も故郷を離れて孤独でしょう。
奈々ちゃんのかくしている寂しさが伝わるのでしょう。
投稿: tomo | 2011.10.12 05:39
>tomo さん
奈々って、幼女大人ってところがたぶんにあるでしょう?
一人っ子で、いつもよくできた父母の看視(?)のもとで育った平蔵は、それを窮屈にも感じ、ときどき羽目をはずしていました。
奈々は、こだわらずに自分をさらけだします。そこが平蔵には魅力にみえるんでしょう。侍の家では考えられないし、江戸で育った子にも求められない不思議な魅力ですね。
投稿: ちゅうすけ | 2011.10.12 06:29
>mine さん
平蔵は、感度をあげることをいってたとおもいますが。
これも、愛情の深浅に帰するでしょうね、おっいゃるとおり。
投稿: ちゅうすけ | 2011.10.12 17:50