{備前屋〕の後継ぎ・藤太郎(2)
「われが公務で与板へおもむいたとき、そなたのお母ごは後家となって2年もたっておられなかったが、あれほど器量よしで、みずみずしさと家産をおもちの女性(にょしょう)であったから、男どもが降るように誘いをかけていたらしい」
「幼いながら、うすうすは感じておりました」
湯桶の平蔵(へいぞう 40歳)が並んで浸かっている藤太郎(とうたろう 17歳)の腕を引いて樋口から離し、
「熱い湯を足してもらおう」
手をうって風呂番を呼び、湯加減を告げた。
樋口からの熱い湯の流れがとまり、
「藤太郎どのはしっていたかどうか、母者・佐千(さち 34歳=当時)どのは、男どもの狙いが〔備前屋〕の財貨と躰であることを見抜いておられた。夫がいたおんなの34歳といえば、独り寝はわびしい。佐千どのがそれに耐えておられたのは、おぬしに〔越前屋〕を無傷で引き継ぐまでとおもいきめておられたからだ」
「でも、私はまだ、〔越前屋〕を相続いたしておりません」
「だが、佐千どのの男友だちが〔越前屋〕の財産を狙ってはいない仁であれば、佐千どのの応(こた)えも変わったであろうよ。われはその男友だちをしらないし、しりたくもないが、佐千どののお考えは推測がつく。お母ごのこころと躰を自由にしてあげられるのは、おぬしだけだ。そうではないか、藤太郎どのよ」
「はい」
湯の中で股間のものをやさしく握られると、藤太郎は前方のあらぬほうをにらんで身を硬くした。
その腕を引き、
「藤太郎、われのものをつかめ。刀身を打つのに代えた、男と男の約定がための作法だ」
【参照】2011年3月15日~[与板への旅] (11) (14)
藤太郎が顔を赤らめながら、平蔵のものをつかんだ。
「よし。お母ごのことは放念しろ。それより、〔備前屋〕を相続しても番頭たちをはじめ、奉公人一同から信頼される店主となるこころがけをみがけ」
「はい。誓って---」
「よし。手はじめは、おんなというものをしることだが、この旅亭のあたりの商売おなごに手をだしてはならぬ。おぬしを男にしてくれるおんなは、われが当てるから、1l両日待て」
「待ちます」
平蔵は呑みながら、14歳のときに父・宣雄(のぶお 享年55歳)の入念な手配でさなぎから男に孵化した体験を語って聴かせた。
【参照】2007年7月16日[仮(かりそめ)の母・お芙沙(ふさ)]
それから、それがいい夢で終わったことも、たんたんと述べた。
【参照】2007年7月24日[仮(かりそめ)の母・お芙沙] (2)
「閨事(ねやごと)というものは、清らかにも薄汚くも行えるものだ。藤太郎どのの初陣は5月の晴れた日のように、うららかでありたい」
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コメント
17才の藤太郎と40才の平蔵が湯舟の中で互いのものをにぎりあい、男同士の誓いを固めるのって、いいシーンですね。これまで、そんなシーン、読んだことがないだけに、感動的でした。
投稿: 三次郎 | 2011.12.11 07:26