口合人(くちあいにん)・音右衛門
『鬼平犯科帳』文庫巻14の[浮世の顔]で、滝野川あたりで刺殺された盗賊を、〔大滝(おおたき)〕の五郎蔵が、7年前に口合人の音右衛門から引きあわされたことのある〔薮塚(やぶづか)〕の権太郎(この事件の時は30過ぎ)と証言。
(参照; 〔大滝〕の五郎蔵の項)
(参照; 〔藪塚〕の権太郎の項 )
権太郎(当時、24,5歳)をつれてきた音右衛門は「一度、使ってみてくれ」といったが、五郎蔵は「一目見て、こいつは自分の盗めには向かぬ奴だとおもいました。こいつの顔にも手足にも、いえ、躰中から殺(あや)めた人の血のにおいが、ぷうんとにおってくるような気がいたしまして---」
というわけで、五郎蔵は断った。
年齢・容姿:ともに記述されていないが、口合人というからには、50歳は過ぎていよう。54,5?
生国:この記述もない。〔藪塚〕の権太郎は上州の新田郡藪塚村の生まれだから、あるいは五郎蔵が高崎在の大庄屋・萩原家でお盗めをしたとき(天明8年 1788 の[7-4 [掻掘のおけい]に記述がある)
のことだとすると、高崎辺生まれともいえるが、確かではない。不明が相当。
探索の発端と結末:五郎蔵の回顧談に出ただけなので、ともに言及されていない。
つぶやき:このシリーズで、口合人という、いうなればアンダー・グラウンドの世界の「ハロー・ワーク」、あるいはNY流にいうとパーソナル・エージェンシーが登場したのは、この巻14の第2話[尻毛の長右衛門]の〔鷹田(たかんだ)〕の平十が最初である。
(参照: 〔尻毛〕の長右衛門の項)
(参照: 〔鷹田〕の平十の項)
で、池波さんは自分がおもいついた新造語〔口合人〕とその仕事がよほどのことに気に入ったのであろう、〔鷹田〕の平十を主人公にした[殿さま栄五郎]をつづけて第3話としておいた。
言葉あるいは人物がきっかけになって、発想が誘発された好例である。
つづく第4話が、この篇。
さらに、第6話[さむらい松五郎]でも、〔赤尾(あかお)〕の清兵衛という口合人が描かれる。
(参照: 〔赤尾〕の清兵衛の項)
さすがにこだわり過ぎたと自省したか、次は巻20の口合人を題名(主人公)にした[寺尾の治兵衛]までひかえている。
(参照: 〔寺尾〕の治兵衛の項)
史料の多用の自制とともに、アイデアの頻用も控えめが好ましい。
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