同心・加賀美千蔵(5)
「それにしても、半刻(はんとき 1時間)のあいだに消えうせるとは---」
同心・加賀美千蔵(せんぞう 3歳)がくやしがった。
「われわれが訪れたときには支度ができあがっていて、裏の賀茂川で丑三(うしぞう 40がらみ)が小舟をもやって待っていたのでしょう」
銕三郎のなぐさめに、巳之吉(みのきち 25歳)が、奉行所の小者らしく、口をはさんだ。
「河原町通りをあがっていったうちらに出会わへんかったんは、小舟のせえだったんどすな」
「いや、小舟は、さがったとばかりはいえない」
「えっ?」
加賀美同心が、聞きなおす。
「ふつうなら、川をくだると考えましょう。しかし、われわれがどこにいるかは、あの者たちにはわかっていません。そこで、うまく誤魔化すには、流れにさからって、川上で舟を捨てて潜むところを整えておいたかも知れませぬ」
「なるほど。そこでほとぼりがさめるのを待つ---賀茂川をさかのぼったか、高野川のほうをとったか--?」
「加賀美どの。きょうのところは、あきらめましょう」
4人は、先刻の茶店へ引き返し、あらためて、銕三郎が〔荒神(こうじん)〕の助太郎(すけたろう 50すぎ)との因縁を語ってきかせた。
13年前の、小田原城下の松島神社と芦ノ湖畔での再会、そして三島宿までの道ずれ。
【参照】2009年7月14日〔荒神(こうじん)〕の助太郎 (1) (2)
三島宿で本陣の主人・樋口伝左衛門の手引きで、14歳だった銕三郎が、お芙佐(ふさ)から、初体験をえたことは、さすがに、あたり前ではあるが、洩らさなかった。
【参照】2007年7月16日~[仮(かりそめ)の母・芙佐(ふさ)]
4年後、養女で妹になる与詩(よし)を迎えに駿府へ出向いた小田原城下、薬種舗〔ういろう〕の前で顔をあわせたこと、さらに彼が盗賊であったことを推測したこと。
【参照】2008年12月27日~[与詩を迎えに] (8)
[{荒神〕の助太郎] (4) (5) (6) (7)
〔風速(かざはや)〕の権七(ごんしち)夫婦が、奇妙なことを思い出したものだから、銕三郎は、〔中畑(なかばたけ)〕のお竜(りょう 29歳)・お勝(かつ 27歳)のカップルと親しくなった。
しかし、お竜・お勝のことも、加賀美同心への経緯(ゆくたて)語りからは省いた。
【参照】2008年3月29日~[荒神の助太郎] (8) (9) (10)
銕三郎がかかわった、駿府と掛川の事件は、加賀美同心の興味をいたく引いた。
【参照】【参照】2009年1月8日~[銕三郎、三たびの駿府](1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10)(11)
(12) (13)
2009年1月21日~[銕三郎、掛川で] (1) (2) (3)
「賊としては、いろいろと知恵をはたらかせる方ですな」
「浅知恵ではありますがな。知恵よりも、実情を調べることには長(た)けています。それと、おんなをとろけさせる技(わざ)---」
「は---?」
「いや。なに---」
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