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2010.08.21

〔銀波楼〕の女将・小浪(3)

午餐(ひる)を食べていってくれ、と〔木賊(とくさ)〕の今助(いますけ 30歳)と小浪(こなみ 38歳)が口をそろえてすすめるので、好意に甘えることにした。

「日没までは盃を手にしないことにきめている」
平蔵(へいぞう 32歳)の言葉に、いささか気ぬけした面持ちですすめたのが、すずめのたたき煮だんごであった。
口の中でくずれるようにほどけ、鳥とはおもえない香ばしさがひろがった。

「初めて口にした味。舌が驚いておる」
「これやったら、お向いの〔金浪楼〕はんに負けてェしまへんどっしゃろ?」

〔金浪楼〕への対抗意識は、いまは帳場をすっかり小浪にゆずって隠居をきめこんでいる先代の女将・お(ちょう 59歳)以来の執念であった。
もっとも、〔金浪楼〕は江都高名料亭番付の上位をとっているから、すずめのたたき煮だんごぐらいでその牙城がくずせるものではない。

参照】2008年10月24日[うさぎ人(ひと)・小浪] (

隣の膳で箸をつかっている今助に、
「毎日、このような珍味を口にできて、幸せだな」
「とんでもねえ。朝昼晩、お茶づけに毛がはえたほどのお膳でやす」
苦笑いが返ってきた。

「料亭のご主人はんが、こないなぜいたく料理を三度さんど口にしてはったら、料亭はやってェいけしまへん」
齢上女房は、けろりとしたものであった。

「そやそや、長谷川はん。〔瀬戸川(せとがわ)〕の源七(げんしち 61歳)はんが江戸くだりしてはるのん、ご存じどすか?」
平蔵はしらなかった。

いまは、〔狐火(きつねび)〕の勇五郎(ゆうごろう 57歳)の継妻のかたちでおさまっているお(しず 29歳)の父・金兵衛(きんべえ 60歳)が歿したので、その後始末に下ってきているのだという。
飛脚便で事情を報せたのは、もちろん、小浪であった。、

金兵衛は、深川の東の平井新田(現・江東区東陽町2~5丁目)の漁師であったが、むすめのおが〔狐火〕の世話になって京都へ移ってからは、その仕送りで独り暮らしをしていた。

「宿は--?」
「いつもの、通旅篭町菊新道(きくじんみち)の〔山科屋〕はんどす」

参照】2008年5月28日~[〔瀬戸川〕の源七] () () () (
2009年8月1日~[お竜の葬儀] () (2) (

「女将どの。相すまぬが、源七どのに、数日のうちの夕刻でも、ここで会える手くばりを願えまいか?」
請けたのは今助であった。
「合点でさあ。日にちの案が出たら、お屋敷へお知らせしやす」


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コメント

さまざまな性格と変わった仕事をもつ人たちが、現れては消え、また平蔵さんの前にあらわれてなにごとか手伝っていく...まさに成長小説ですね。
ちゅうすけさんは、銕三郎のイタ・セクスアリスだと観じていらっしゃるようですが、きょうのところでは8才姉さん女房の小浪と今助のイタ・セクスアリスに近いし、その前は、小浪と20も年長の元締・林造とのそれでした。
これから先、平蔵は、どういう女性と体をかさねていくのか、それも興味津々です。
火盗改めの長官になってしまうと、そういう不倫もできなくなるでしょうし。

投稿: tomo | 2010.08.21 04:43

>tomo さん
いつもすてきなコメントをありがとうございます。
じつは、イタ・セクスアリスは体験が少ないので、経験豊富な方々がアクセスしてくださっているのに、臆面もなく---と思われているおもうと、キーを打つ指がとどこおりがちです。
しかし、イタ・セクスアリスは、各人各様と割り切り、友人たちの話をモディファイしながら書き進めています。いたらない点は、ごかんべんください。
まあ、小説(?)というのは、愛と死と友情(信義)につきるといいますから、小説ではありませんが、性愛も書くにたることと---。

投稿: ちゅうすけ | 2010.08.21 13:47

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