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2011.01.15

今助(いますけ)・小浪(こなみ)夫婦

平蔵(へいぞう 36歳)の年詞まわりが一段落した非番の5日は在宅---出入りの親方や下職たちの祝辞をうけ、酒をふるまった。

そんな来客の中に、浅草・今戸一帯の香具師(やし)の元締・〔木賊(とくさ)〕一家を受け継いでいる今助(いますけ 34歳)と内儀で料亭〔銀波楼(ぎんぱろう)〕の女将・小浪(こなみ 42歳)がいた。

さすがの貫禄で、若い者(の)に持たせた角樽と焼き鯛を献じ、
「本年もよろしゅうに願いいたしやす」
「あがりの加減は、どうかな?」
「まあまあ、といったとこで---」
「それは、めでたい」

毎年くり返されるあいさつのあと、平蔵小浪へ、
「よいところへきてくれた。じつは、明日にでも遣いをつかわすこころづもりをしていたところだ」
「なんぞ、おきよりましたえ?」

2日前に与頭・牟礼(むれい)郷右衛門元孟(もとたけ 61歳 800俵)の屋敷の門前で、待ちかまえていた〔蓑火みのひ)〕の喜之助(きのすけ 60歳)のところの者とおもえる中年で、身の丈6尺(1m80cm)はある大男から、〔五井ごい)の亀吉(かめきち 42歳)の内儀への1両(16万円)を返された、と話した。

「そら、〔大滝おおたき)〕の五郎蔵(ごろぞう 43歳)はんにきまってぇおす」
ちらっと亭主・今助へ視線をなげたうえでぬけぬけと、
「ええ、男はんでおましたやろ?」

「やはり、〔蓑火〕の一味の者であったか---」

千浪が掌を振り、2年前までは〔蓑火〕の小頭であったが、喜之助から許され、いまは〔五井〕のとならび頭(がしら)で独り立ち---、
「そや、ならび頭で独り立ち、いうたらおかしおす---一家を立てていやはります」

これから、冬木町寺裏の茶寮〔季四〕へ年賀にまわり、里貴(りき 37歳)女将と、熟れおんな同士、こころいくまでおしゃべりしてくるという小浪を送りだし、居残った今助に、
「そろそろ、後継ぎのことも手当てしておかないと、な」
千浪からは、毎晩のようにねだられておりやすが---これだけはなんとも---」
「毎晩か---今助どんもつらかろう---う、ふふふ」

長谷川さま、笑いことじゃござんせん。なんせ向うは42歳、躰のすみずみまで熟しきったといいやすか、悦楽の味をしゃぶりつくした老桜(うばざくら)なもんで、もういい、ということがなくて---」
「躰のすみずみまで熟させたのは、今助どんであろうが---」
「若いころは、それがうれしゅうて---」

「ま、千浪どのが唐(から)の国でいう好女(こうじょ)---好きおんなと書く、床(とこ)上手にはちがいなかろう?」

参照】2010年12月22日[医師・多紀(たき)元簡(もとやす)] (

「あのことが好きで好きで、とことんまでいかなきゃおさまらねえおんなであることは、まちがいありやせん」

「そのことはともかく、後継ぎのことも手当てだ」
平蔵が本筋へ戻した。
浅田剛ニ郎どののご子息は幾つになったかな?」
朔ニ郎(さくじろう)はあけて---12歳になりやす」
「仕込み甲斐がありそうだな」

参照】200余年4月17日~[一刀流杉浦派・仏頂(ぶつちょう)] () (
) () (

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コメント

大滝の五郎蔵さんを、平蔵さんが初めて意識しました。
これから、面白くなりそう。

投稿: tomo | 2011.01.15 05:37

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